11月29日 ― 2005/11/30 01:06
諸般の事情により、本日からジャンル分けを少し変更する。今まで灰色扱いしていた小説一般を緑色に変更する。「一般的なエンターテイメント」って意味合いのジャンルにするってコトで。単に緑色の話題が見つけにくかっただけって話はあるけど。
というわけで、本日は異色短編集「どんがらがん」を紹介する。猛烈に面白いので。「知らない」ってのは罪じゃないけど、「知ってて何も言わない」ってのは立派な罪だと思う。そーゆー作品である。
まずは書誌学データ。「どんがらがん」河出書房新社刊。作者アヴラム・デイヴィットスン。編者殊能将之。編者はなんか文学賞受賞した作家らしい。よく知らないけど。ちなみにお値段は¥1,995.-です。
作者はフツーの人は全く聞いたことがないと思う。けど、私は2つほど知識があった。ミステリの短編で賞を貰った人なんだよね。その時の作品「物は証言できない」(今回も収録されてる)は面白かった記憶があった。でも、もう1つの推薦の方が強力かな。この作者、実は「エラリー・クイーン」として作品書いた経歴があるのだ。
エラリー・クイーンと言えば、まごうことなきミステリ界の大物。神とあがめる人も少なくない。でも、その正体は別の人じゃ?それはおおむね正しい。エラリー・クイーンの正体はフレッド・ダネイとマンフレッド・リーの合作なんだけど、実はいくつかの作品ではダネイがプロット考え、他の作家が書いていたそうな。SF作家として有名なシオドア・スタージョンも「代筆」していたとか。ま、どーでもいい知識ではあるんだけどね。
短編集だけあって、ジャンルは雑多。つーかこの作者、ミステリ・SF・ファンタジーの3ジャンルで短編の賞もらってたりする。ある種の天才だね。どう考えても「知る人ぞ知る」作家だけど、これは紹介しない方が悪いと思う。この辺が日本の出版界のイケナイところだと思うんだけど。ブツブツ…
内容は…とにかく読むべし。騙されたと思って。全部いいとまでは言わないけど、きっとガツンと来る作品があると思う。とにかく平均点高いし、面白いものは傑作レベル。私はこういう「ジャンル分けの難しい、いい味出してる短編作家」が大好きなんだけど、それを差し引いてもイイと思う。ロアルド・ダール、フレドリック・ブラウン、シオドア・スタージョン、星新一、阿刀田高といった作家の作品を読んで面白いと思った人ならば、絶対楽しめるだろう。
私が特に気に入ったのは、「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」だなあ。冴えない主人公の近所に越してきた、謎の東洋人。その東洋人が売っているのは、魅惑的な東洋の書。だけど、そのお値段は「純白のオウム一羽、ゾウ一頭」といった不可思議な物ばかり…ってもの。「本の虫」であれば、誰でも主人公の気持ちがわかると思う。タイトルがまた上手いんだな。
少し一般的なものとしては、「パシャルーニー大尉」もイイ。気の利いたオチの付いた人情話である。いつも「うちの父ちゃんはなあ…」という哀しいウソをついていた孤児に、突然現れた父親の話。単なる人情話ではなく、ちょっぴりほろ苦くて余韻があり、色々と想像力をかきたてるときたもんだ。こんな話はなかなかないよ。
「質のいい短編集」というのは、絶滅の危機にあると思う。短編小説は原稿料安い・本売れない・誰も書かないの3拍子が揃いつつあり、初期に習作を書いた後はみーんな長編に流れてゆく。出版社に至っては、単なる義務感からイヤイヤ短編集出しているんじゃないかって感じがするくらい。今じゃ「短編故の良さ」ってのは理解されないのかなあ。だけど、いい作品は本当にイイ。長編小説は「何で小説なの?漫画や映像でいいじゃん」と聞きたい気もするけど、良くできた短編小説は他に換えが効かないと思う。
ここで紹介する本ってのは、大抵反応が悪い。「あっそ」で片付けられてる気がする。まあ、それでかまわないって趣旨で運用されてるんだからいいんだけど。ただ、一応当人は本気で「イイ!」と思っていたりするんだな。たまには騙されたと思って、手に取ってみてくださいよ。珍しく「一般人が読んでも恥ずかしくないモノ」紹介したんだから(笑)。
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