11月28日2005/11/29 00:43

 天才はやっぱり天才だった。今年のJCは、身震いするほどにスゴかった。今一度声を大にして主張したい。天才デットーリは偉大であると。
 
 スタートの瞬間、多少で遅れたのは事実。思わず「何やってんだ天才!」と吼えてしまった。しかし、そこで慌てないのが天才。す~っと内に切れ込み、無理せず中断後方につける。そこでハイペースで逃げる前をにらみつつ、じっと我慢する。この辺の判断はさすがだね。
 
 前を行くタップダンスシチーは猛然とぶっ飛ばした。疑いようもなくハイペース。前行った馬の顔ぶれはさほど変わらないのに、秋天とは大違い。中盤になってもそのペースは全く緩まない。4角回ったところでは、「このまま行くのか?」って思ったくらいだ。
 
 だけど、競馬はそんなに甘くない。直線に入ってウィジャボード・ゼンノロブロイ・アルカセットが差してきた。ここで一番伸びたのは天才騎乗のアルカセット。「豪腕」ってイメージはないんだけど、天才の追う馬は本当に良く伸びる。天才の騎乗技術がわかりやすく実感できる瞬間だね。何度見てもあれは美しい。
 
 そこに猛然と襲いかかったのが、ハーツクライ。最後の最後まで我慢して、一気に全部交わしに来たのだ。他の馬が止まって見えるほど鋭い脚を使ったけど、最後に控える天才だけは話が別。最後の最後にぐいっともうひと伸びし、並んだところがゴールだった。
 
 写真判定はきわどかった。ゴール前のスロー映像で「コレは微妙!」って声が出た。普通ならばどっちが有利かわかるんだけどね。審議もあった関係上、結果が出るまで本当に長かった。ありゃあ本当に府中全体が固唾をのんでたね。
 
 結果、勝ったのは天才&アルカセット。2着ハーツクライ。前年の覇者で1番人気ゼンノロブロイが3着。タイムは何と2分22秒1。平成元年にホーリックスが出したレコードタイムを0.1秒更新した。な、何だと~!何が勝ったかはともかく、この時計はビックリである。
 
 今から16年前、オセアニアの女傑ホーリックスとオグリキャップが、壮絶な叩き合いの末にマークした2分22秒2。このレコードは「更新不能じゃないか」と思っていた。それぐらいズバ抜けた時計だったのだ。この後に府中2400のレースは多数行われているけど、近いタイムすらお目にかかれない。疑いようもなく、日本競馬史上に残る大記録の1つだ。それが更新されるとはねえ…嬉しい反面、ちょっと寂しくもある。
 
 それにしても、可哀想なのはハーツクライ陣営である。この馬自身GIの2着はこれが3回目。鞍上ルメールは来日通算5回目。共に勝利なし。管理する橋口調教師は4勝してるけど、2着はこれで18回目…橋口調教師が「何でまた2着なんだ!オレは運がない!」と吼えたのもわかる。審議対象になったのは事実であり、それ自体は褒められたコトじゃないとは思うけど、勝とうと思ったらアレ以外どーしろと。ホーリックスのタイム更新して、さらに前に馬がいるなんて普通考えない。相手が悪すぎた。これが勝負の残酷さだね。
 
 天才はこれでJC3勝目。勝ったのはみんなハナ差。接戦に強いのは技術の証と同時に、天運に愛されている証拠だろう。私が天才を愛するのは、騎乗技術が高いからではない。それをも超えた「特別な強さ」があるからだ。天才なら何とかしてくれる。天才で駄目なら何をやっても駄目。勝負事という不確実な世界の中で、そんな気持ちにさせてくれるモノを持つゆえに「天才」なのだ。もしも自分の命賭けた勝負をやれと言われたら、ためらいなく天才の馬券を買いに行くだろう。天才はその価値がある漢である。
 
 とはいえ、私はちっとも偉そうなことが言えない…競馬場に着くまでは、前に行く馬の顔ぶれが秋天と変わらないので、「またスローでしょ」と決めつけていた…そう、ハーツクライは買わない予定だったのだ。しかし、知人と話しているうちイヤ~な予感がしてきてねえ。タップダンスシチーが馬体重10kg減(どう考えてもプラス材料)と聞いて、土壇場で方針変換。ハーツクライを買うこととし、オマケに三連複をやめて馬連に。結果としてコレが大正解。ハーツクライが2着に突っ込んできた上に、馬連は三連複より配当良かったときたもんだ。土壇場の弱気が好結果をもたらすという、ちょっと珍しいこととなった。なんてだらしない…まあ、「相性の悪い魔神(ペリエ)のいない秋のGIなんて嬉しいね!」なーんて公言してる段階で自慢にはならないんだけど(苦笑)。
 
 今年はディープインパクト絡みで競馬が盛り上がっているけど、この馬は何だかんだ言ってまだ3歳。3歳限定戦でブイブイ言ってるだけの存在だ。本当に面白いのはこれからでしょ。それに対し、「世界最強スプリンター」サイレントウィットネス様とか天才デットーリの方はイマイチ注目度が低かったような。これは少しもったいない気がする。アルカセット号は有馬記念出走って選択肢も考慮中と聞くので、もし対決した際には、「天才」の恐ろしさを日本中に知らしめてもらいたい。本当はレコード駆けの反動が怖いんだけどね(苦笑)。