11月18日2005/11/19 03:17

 はっはっは、やっと探していた情報が手に入った。苦労させられたぜ。というわけで、深く考えずに完成させたネタをそのまま公開しましょ。タイムリーじゃないけど。
 
 先日発覚した「女子高生によるタリウム投与事件」。道徳的な話はともかく、ミステリマニアとしては極めて興味深い話ですね。詳細な研究などはプロ(法律家だの作家だの)に任せて、とりあえずはタリウムについて語ろうかと。
 
 タリウムってのは元素の一種。重金属で、基本的に人体には猛毒。じわじわ効いてくるってのが特色で、少しずつ与えて殺害するのに向いている。検出は容易で治療法も確立してるんだけど、最大の特徴として気づかれにくいってのがある。
 
 タリウムの正しい?用法としては、食べ物などに少しずつ入れてじわじわ殺すものとなる。似たような使われ方をするものに砒素があるけど、砒素はあまりに有名になった(その昔から使われてた)関係上かなりバレやすくなり、「愚者の毒物」と言われるほどになった。それに代わって登場したのがタリウム。重度のミステリマニアなら、記憶しておく価値がある。
 
 ミステリマニアなら、タリウムと聞けばグレアム(グラハム)・ヤングとアガサ・クリスティーって名前が反射的に出てくるようでなくては。前者は有名な毒殺者。特に誰かを殺そうと思ったワケじゃなく、どうも周囲の人物全てを実験動物扱いしたらしい。医者がトンチンカンな診断下すのを見て喜んでいたって記録がある。恐ろしいですねえ。コイツを尊敬していたっていうんだから、例の女子高生も同類じゃないかと。ちなみに死刑じゃなく獄中で病死した。
 
 アガサ・クリスティーは説明不要だろう。高名な推理小説作家。元看護婦って経歴だけに毒物には詳しく、作品の1つにタリウムを使っている。新聞などではしっかり作品名が掲載されたけど、これは「犯人バラす」に匹敵する反則行為だと思う。ミステリの解説書だの化学の専門書で掲載するのはともかく、新聞で掲載するのはマズいんじゃ。作品読んでないから、その辺の区別がついてないんでしょ。
 
 このタリウム使った作品は、クリスティー女史の作品の中で特にメジャーってわけではない。なのに何でタリウムと言えばクリスティーなのか?スゴい実話があったんですよ。中東で幼児が謎の病気に罹った。中東の病院はもとより、英国の病院ですら原因不明。ところがどっこい、クリスティーを愛読していた看護婦が、「なんかあの作品の症状にそっくり」と指摘して調べたところ、タリウム中毒と判明。おかげで一命をとりとめたそうな。ミステリが実社会で有意義に役立った、珍しい例じゃないかな。
 
 タリウム中毒ってのはフツーの病気と区別が付けにくく、しかも無味無臭。疑って調べれば一発でわかるけど、簡単には思いつかない。ある意味「究極の毒薬」じゃないかな。ただ1点、見分けやすい特徴がある。やたら髪が抜けやすくなるのだ。これは有名で覚えやすいので、発覚するきっかけとなりやすい。逆に言うと、ハゲオヤジに使えばよりバレにくい…なんかシャレになってねーな。
 
 その昔はネズミ取りに使われていたらしいけど、今現在はかなり入手しにくい薬物である。同位体の放射性を利用して、ごく少量を医療用検査に使ったりする程度。理由は単純、毒殺に使われたら効果的すぎるから。特に無味無臭ってのがヤバい。たとえ「これはタリウム中毒だ!」とわかったとしても、何に入れられたのかがさっぱりわからない。それこそ片っ端から検査しなくちゃいけなくなる。危なくて仕方がない。事故のことも考えたら、「実験に使う」って理由で未成年に売っていいモノとは思えないんだけどなあ。
 
 砒素に青酸化合物、ニコチン・ストリキニーネ・ジキタリン・スポコラミンにアトロピン…世に毒物は山ほどあるけど、憎い相手を病気に見せかけて毒殺したい場合、タリウムは有力候補だと思う。入手が難しいので簡単にはいかないだろうけど、逆に言えばそれさえ解決できたら…「最近体調悪いし、よく髪が抜けるんだよね」というアナタ、他人に恨まれてませんか?「オレもトシだからなあ」で片付ける前に、少し考えてみた方がいいかもね。