9月13日 ― 2007/09/14 01:45
安倍首相電撃退陣の陰に隠れた形になったけど、本日は新司法試験の合格発表。当然のことながら私は特別に関心がある(仕事だ)ので、本日はこのネタで。なお、参考にするのは法務省発表の数字のみ。他の数字もある程度知っていたりするけど、そんな極秘事項を書けるわけない。悪しからず。
その前に、少しだけ制度をおさらいしておこう。新司法試験ってのは、法科大学院を卒業した人間だけが受験できる。法科大学院には既修コースと未修コースってのがあり、既修コースは法学部卒業した連中、未修コースは他の学部を卒業した連中が勉強する…ってことになっている。未修コースは卒業までに3年かかり、今年初めて試験を受けた。それだけに、去年より今年の方が「法科大学院の実力を知るためには」重要なんだよね。
合格者数1位は東京大学。去年は受験者の数が少なかったのでトップを譲ったけど、さすがは東大…と言いたいところだけどなあ。ここは日本一規模がデカい。受験者の総数が一番だもの、合格者数1番はある意味当然でしょ。合格率は悪くないけど、逆に言えばその程度でしかない。OB連中はカリカリしてるんじゃないかなあ。
2位は慶応。ここは先日「試験問題漏洩疑惑」を引き起こした。新司法試験の問題作成ってのは、法科大学院の先生方も加わって作られる。そうやって「教えてること」と「試験に出ること」に大きな差が生じないようにしているのだ。これ自体は旧司法試験時代からやってることだけど…その気になれば、「これがズバリ出ます」って教えられるのも事実。実際には「李下に冠を正しちゃった」(限りなく怪しいけど、一応セーフ)だけって判定が下ったようではあるけどね。ちなみに、合格率は悪くない。
3位は、去年1位の中央。東大に次いで図体がデカい上、短答式の合格者数では2位だったクセに最終合格者数は3位に落っこちた。去年1位とはいえ合格率はさほどでもなかったコトを考えれば、こんなものかもね。
4位は京大。ここは実は「カリキュラムに弱点があるのでは?」って噂があったらしいんだけど、まあ悪くない結果と言えるでしょ。ただ…天下の京大がこの合格率?って言われても仕方ないかも。
5位は早稲田。でもこの合格率はヤバいでしょ。トップグループから脱落するってほどじゃないけど、少し差が付いちゃったからなあ。「大半を未修コースに叩き込む」って方針は失敗だったかもしれない。上位陣の中では一番深刻なんじゃないかなあ。
ここまでの分析なら、はっきり言って誰でも出来る。おそらく一般紙ではこのレベルの解説をしているんじゃないかなあ。それじゃあ面白くないよね。そこで、既修・未修別の合格者数に注目してみましょう。法科大学院ごとの「特色」が見えてくるはずなので。
実のところ、未修コースってのはかなーり無茶がある。人間としては優秀かもしれないけど、「法律の勉強はあまりやってません」って連中を、たった1年で「法律家になるべく、真面目に法学部で勉強してました」って連中と互角にまで教育するってのがタテマエだから。実際には法学部出身者も多数いると思われるけど…
ただ、そんな制度だけに、未修コースにどれだけ力を入れ、どれぐらいの合格率を叩き出しているのかは重要でしょ。この手の合格率って、結局は「どれだけ質の良い教育をしてきたか」だけじゃなく、「どれだけ優秀な生徒を囲い込むことに成功したのか」も重要だからね。いくら人間として優秀でも、受けてきた教育内容でハンデを背負っている未修コースの合格率は、法科大学院の教育内容がより重要になるんじゃないかと思うので。
その観点から上位5校の合格率を見てゆくと…何故か慶応の数字が飛び抜けて良い。他は既修の方が高いか五分五分なのに、ここだけ未修の方が高いのだ。これはちょっと不思議。生徒数考えれば、早稲田のように「ウチは未修コースに力入れました」って方針とは思えないのになあ。「実は法学部出身でーす」って生徒が多いのかもしれないけど、教育期間が長いってコトはそれだけ学費もかかる。それを考えれば、未修コースに良い生徒を集めるって言っても限界がある筈なんだけどなあ。とりあえずここでは「不思議だなあ」と言うに留めておきましょう。
逆にヒドいのは中央。上位陣では飛び抜けて低い(苦笑)。だからってココの教育方針が間違ってるとまでは言わないけど、何かしら見直した方がいいんじゃない?目立ちにくいのは確かだけど、「見る奴はキッチリ見てくる」だろうから、放置しておくと法科大学院全体はおろか法学部にまで「名前で元々デキの良い奴集めてるだけ」ってレッテル貼られかねないぞ。
数字上は並だけど、それじゃマズいだろってのが早稲田。ここは「未修コースに力入れました」って方針だからねえ。やや目立ちにくいところに弱点がある中央と違い、露骨に目立つからなあ。今更方針変更はできないだろうから、とにかく頑張るしかないでしょ。ここでは「あーあ、やっちゃった」ではなく、「高い理想を掲げたんだから、なかなか結果が出ないのも仕方ない」ってことにしておいてあげよう(苦笑)。
今回の数字及び去年の数字を色々と見てゆくと、「日本一の法科大学院」はこれら5校ではなさそうだ。生徒数が少な目なので目立たないかも知れないけど、一橋の合格率が相当高い。はっきりと「ズバ抜けている」って言ってもいいくらい。まあ学閥ってのはどの世界にもあり、そこでは「数は力なり」って論理が働く。その他諸々考えると、だからって即「一橋が法曹界の覇者になる」わけではないんだろうけど…ただまあ、受験生はこういう数字に敏感だろうからなあ。今後の展開が楽しみだ。
大学なんてモノは、結局ブランド価値がモノを言う。有名校は「有名だから」良い生徒を集めやすく、そのため良い結果が出やすい。それがまたそこの価値を高めてゆくわけだ。それだけに簡単に「序列変動」は起きないはずだけど、何かしら制度が変わって「横一線でヨーイドン」となった場合、序列の大変動が生じる可能性が(わずかではあるんだろうけど)出てくる。法科大学院創設と新司法試験ってのは、その好例ではないかな。下手をすると大学全体の地位に影響が及びかねない(法学部ってのはどの大学でも「目玉」だからねえ)だけに、少し長い目で追跡調査してみるのも楽しいのではないかと。
もっともだねえ。大学なんて実は「生臭い話のカタマリ」だろうから、そのうちどこぞのマスコミがこのネタであることないこと書きまくるんじゃないかと。今回のネタは、その記事をより楽しむための予備知識として活用していただければ幸いです(笑)。
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