2月23日2012/02/24 00:42

 先週末はコマンド誌入手して、Middle-Earth東京支部に顔を出し、「第三帝国の興亡」選択ルール(実質ルール改定。私はこの手の「飾った言葉」は嫌い)を試してみた。ま、この改定についてはまた後日。まだ色々まとまっていないので。
 
 その代わりにお送りするのは、コマンド誌にもちらっと掲載されていた、「ヒトラー電撃戦における1940年バルバロッサ」について。付録ゲームがそーゆーテーマなので、色々語っているからなあ。
 
 「ヒト電」における40年バルバロッサについては、ひととおり研究してみたことがある。私は一時期「独軍の必勝法ではないか」と本気で疑っていた時期があるのだ。その対策について色々考えていった結論が、「史実をベースとした戦略の方が勝る」だったりする。この時の研究があるからこそ、コマンド誌に短期連載を掲載することが出来たのだ。その意味では、懐かしい話題である。
 
 ヒト電では、40年バルバロッサを禁じるルールは何もない。「やれるもんならやってみろ」状態だ。確かに西部戦線に守備隊を残す必要はあるけれど、仏占領後でも海岸守備隊を残す必要があるんだから、気になるほどではない。独軍はまだ弱体ではあるけれど、赤軍は輪をかけて弱体だ。それを一気に蹴散らし、増援(生産された部隊など)を出てくるそばから各個撃破してやれば、赤軍を降伏に追い込めるのでは?そう考えていた時期が私にもあったんですよ。実際、ゲームの仕組みをあまり理解せず、単に「史実通りにやればいいんでしょ」などと考えてプレイしている連合軍が相手なら、この手が華麗に決まっても何の不思議もない。
 
 連合軍はどう対処すれば良いのか?まずは西側の対策から紹介しよう。軸となるのは、やはり「英仏軍を用いた独侵攻」だろう。このゲームでは、ベルギー軍のセットアップには大きな穴がある。アルデンヌが空っぽなのだ。普通は独軍がこの穴を用いて仏に突進してくるわけだけど、この穴は英仏が利用することもできる。その隣にはルールという「独軍の重要拠点」が存在するので、1つ間違うとシャレにならないコトになる。
 
 余談だけど、この「アルデンヌの穴をどうするのか」は、両軍にとってかなりアタマの痛い問題である。ベルギーに宣戦布告すれば部隊を送り込んで守ることが出来るけれど、その場合ブリュッセルを相手にタダで渡すことになりかねない。私は最終的に「史実通りで問題ない」という結論を下したけれど、色々と悩ましかったのは事実。
 
 確かにルールは危ないけれど、だったらガッチリ守ってしまえばいいだけでは?確かにそうだ。しかし、「ヤバい隙」はココだけじゃない。スカンジナビア半島とバルカン半島も危ない。まずスカンジナビア。ヴェーゼル演習抜きで独ソ戦を開始すれば、英軍がノルウェー侵攻をしてくる可能性が高い。トロンハイムの国家戦略ポイントは独軍のモノなので、独軍が算出する燃料が毎ターン1減らされる。これだけでも痛いが、真の問題はその後の展開にある。英軍が調子に乗ってストックホルムを占領し、さらにコペンハーゲンになだれ込んでくれば、バルト海沿岸の海岸全てが強襲上陸の危険に晒される。コレは痛いどころの話じゃないので、コペンハーゲンもガッチリ守ってやる必要がある。
 
 バルカン半島も危険な土地である。独がソ連に宣戦布告すると、自動的にユーゴスラビアが連合国に味方する。ユーゴ軍自体は(中小国なので)国外に出ることが出来ず、脅威でも何でもない。しかし、モンテネグロの港に英軍が海輸されてきたら…独がモンテネグロを占領しない限り、コレを阻む手はない。伊海軍がいれば補給線は切断できるかも知れないけれど、燃料ユニットごと海輸されてきたらお手上げだ。ついでに言えば、仏降伏前だと伊は中立。ご丁寧なことにハンガリーまでもが中立だ。この状態でルーマニア(独の資源がある)を守る必要があるのだ。ね?アタマ痛いでしょ?ついでに言うと、ルーマニアに行くと見せかけて北上され、「東部戦線丸ごと補給切れ」にされないよう、注意してね。
 
 更に問題なのは、伊である。東部戦線で独が拠点を占領すると、「バスに乗り遅れるな」とばかりに伊とハンガリーが参戦してくれる。ハンガリーはともかく、仏が健在な時点で伊が参戦するってのは…そりゃまあ、伊が提供してくれる戦争資源はオイシイ。けれど、下手するとそれでも「赤字」になるほど、伊に守備隊を送ってやる必要が…マカロニは英軍に攻撃されると「コンパス作戦効果」(1シフト不利)を喰らうからなあ。
 
 40年からバルバロッサ作戦を開始するというのは、要は「西側に多大な隙を残しておきながら、東部戦線という泥沼に足を突っ込む」ってコトなのだ。対応を間違えれば、致命的な結果になりかねない。キチンと対応すれば何とかしのげるとは思うけれど、そのために燃料や部隊を捻出することにより、東部戦線での攻勢は確実に鈍る。いちいちそんなコトで悩むくらいなら、最初から隙を潰しておき、東部戦線に集中できる環境を整えてからバルバロッサを開始した方が…ってのが、私の意見だ。
 
 なお、西側連合国も注意が必要だ。これらの作戦は確かに「うまくいけば独を破滅に陥れる」ことが可能だ。ただ、米参戦前の西側はロクに資源がない。部隊は仏が補ってくれるとしても、燃料はかなり厳しい。あまり無駄遣いできるような状況とは言えない。基本は「独軍を揺さぶって対応を引き出し、東部戦線に送り込まれる戦争資源を削る」ための作戦だと割り切った方が良さそうだ。独軍の守りが堅くあまり効果が無さそうだと感じたら、その方面はスッパリ諦めた方が良いだろう。ただ、米国参戦後に改めて猛攻をかけるための足がかりって考えもあるので、ドコにどれくらいの戦争資源を突っ込むのかは大いに悩みどころではないかと。
 
 西側がいかに揺さぶろうとも、ソ連を屈服させてしまえばいくらでも取り返しが付くのでは?その通り。私も当初は「色々揺さぶりは出来ても、ソ連崩壊を防ぐための決定打とは…」と思っていた。ソ連の「引き籠もり防衛策」に気がつくまでは。そう、このゲームには40年バルバロッサを禁じるルールがないだけではなく、ソ連が最前線で守る義務もないのだ。
 
 ソ連が引き籠もって守ったらどうなるのか?私は研究の末、「ソ・フィン戦争にそれなりの資源を投入しても、40年春の時点で4戦力平均の防御線を構築可能だ」という結論を出した。そこまで深く研究しなくても、ソ・フィン戦争を省略すれば似たような防衛線が築けるはず。こうすると「電撃戦だけでの一発死」が100%あり得ないので、「装甲部隊だけの攻撃で戦線が丸ごと吹っ飛ぶ」なんてコトはまずなくなる。
 
 しかもだ。引き籠もり防衛線を攻撃するため部隊を近寄らせるだけで、アホみたいな量の燃料が消え去る。特に深刻なのは歩兵だ。装甲は機動力があるので、さほど苦労せずに攻撃位置に付くことが出来る。しかし歩兵は…コレに比べれば、対仏戦に必要な燃料でさえ「はした金」と思えるくらいだ。40年の時点でこの出費に耐えられるだけの燃料が蓄積できるか?かといって、ある程度歩兵を前進させないと、装甲部隊の側面が狙われる。派手に突破したはいいけれど、側面を攻撃されて孤立させられました…じゃあ、お話にならない。
 
 これはつまり、「赤軍が引き籠もり防衛策を採用すれば、独軍の攻撃で戦線が丸ごと吹っ飛ぶことはない」ということだ。独軍は優秀だから、赤軍戦線に穴を開けることはできるだろう。ある程度突破し、モスクワだのレニングラードだのを占領することも出来るかもしれない。しかし、流石に「戦線消滅→増援各個撃破」って流れに持ち込むのは無理がある。キチンと計算したワケじゃないけれど、多分燃料が足らない。そして、この流れに持ち込めない以上、西側にある隙を「勝手にしろ」の一言で片付けるのは無茶としか言いようがない。
 
 それでも、モスクワが占領できれば…どうなるって?このゲームでは、その程度では赤軍は絶対降伏しない。せめてゴーリキーまで前進できなければ、あまり意味がないのだ。赤軍にしてみれば、モスクワは即時反撃に絶好の土地である。即座に叩き出されるくらいならまだいい。側面を大胆に刈り取られ、モスクワ突入部隊が全部補給切れにされたら…まあ、投了を認めてくれることを祈るしかないと思うな。認めてくれなかったら?知るか。
 
 このゲームは原題が「BlitzWAR」となっているにもかかわらず、実のところ戦争経済が重要である。安易に史実と異なる戦略を検討して、何度アタマの中のヒトラー閣下に「お前は戦争経済がわかってない」と怒られたことか。それどころか…突破を焦ってマーケットガーデン作戦モドキを実行したら見事に対応され、地道に独軍を削らなかった自らの不明を恥じつつ、「橋は遠すぎた…」と呻いたこともあったなあ。アイク、君があんな作戦やらせてみたくなった気持ちは良くわかる。わかるけれど、許可した君は私と同程度に無能だ(笑)。戦争経済の裏付けのない作戦は、大抵対応されてオシマイである。コマンド誌掲載の「付録ゲームカバーストーリー」(著者は付録ゲームデザイナーのボンバ)に、40年バルバロッサは「最初の一撃で勝利できなければ、何も得ることができないだろう」とあるけれど、ヒト電のデザイン哲学は「そーゆームシの良い考えで戦争するな」となっているのだから仕方ない。
 
 私は何も40年バルバロッサが「箸にも棒にもかからない作戦」だと言っているワケではない。興味深いオプションだし、色々試してみる価値はあると思う。ただ、ドコをどう考えても必勝法ではないし、それどころか「史実通りの作戦の方がマシなのでは」って気がするのは事実。「何でもアリ」と見せかけておいて、その実はキチンと史実通りの作戦に誘導されているのだ。その意味では、改めてこのゲームは良くできていると思う。
 
 ただ…最後にこれだけは書いておこう。40年バルバロッサ最大の利点は、「史実というテキストが存在しない作戦である」って部分にある。史実はああだった、少しひねればこうなったと思う…ってな知識が通用しない局面に誘導された瞬間、対応できずに崩れて負けた奴なんて腐るほどいる。軍神鹿内殿でさえ、「史実ってテキストが存在しないと、厳しいんだよ!」と力説しておられた。対戦相手が重大な見落としをしてくれる可能性は高い。ただ、コレは自分にも言えるコトなので注意が必要だけど。
 
 ヒト電は1日で終わるようなゲームじゃないので、そうそう気軽にプレイできるシロモノじゃない。とはいえ、ある程度慣れてくると2日あれば決着は付くと思われる。こーゆーテーマのゲームをガッツリ楽しみたいと思ったら、むしろこれぐらいが適切じゃないかって気もするな。機会があったら是非プレイして欲しい。私は喜んで対戦受けますよ!ご希望とあれば、私が独軍受け持って40年バルバロッサやってもいいな。もっとも、私の研究が正しいって保証はドコにもなかったりするんだけど。本当にこうなるのかぁ?確かに各種検証作業じゃこういう結論が出たんだけどさあ…なにせ私は「アイクと同程度に無能」だからして(笑)。

コメント

_ ゴンサロ ― 2012/02/24 23:23

 ヒトラー電撃戦、いいよね。
最新号のバックナンバー見ると、残部僅少とのこと。
ようやく、このゲームの出来のよさが、ある程度、知られるようになったかと嬉しいです。
 これもF男さんの作戦研究記事のお陰だと思っています。少なくとも私は、あの一連の記事がなかったら、プレイする気になれませんでした。

_ F男 ― 2012/02/25 03:53

ヒト電はいいですよね~。「燃料が足らない、部隊が足らない、何もかもが足らないんだよ!」とアタマ抱えながらギリギリの戦いをしている感じがたまらないです。

>あの一連の記事がなかったら、プレイする気になれませんでした。
その気持ち、わかります。私も初見の印象はあまり良くなかったので。ある程度研究しないと魅力を引き出しにくいゲームなので、ああいう記事は必要だったと思います。そこを評価していただけるのは、とても嬉しいです。

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