3月9日2007/03/10 03:01

 金曜である。明日は休みだ。おまけに、本日キッつくて無茶苦茶重要な〆切を乗り越えた。つーわけで、大ネタいきます。ただし、本日は読み手を思いっきり選ぶネタです。覚悟して下さい(苦笑)。
 
 ゲーム仲間である西新宿鮫氏…とよく似た人である鮫形鐘一郎氏が、「芸夢人生」なるブログを立ち上げた。3つめとは偉いなあ。私なんかここだけでヒイヒイ言ってるのに…ってな愚痴はさておき、なかなか興味深いことを書いているので、この場で思いっきりツッコミます。なにせ向こうにはレス機能がないので。
 
 氏の主張を要約すると、こうなる。「ゲームルールは冗長な文章が多い。」うん。その通り。もっとすっきりした日本語にできないか…ってのは私も感じていたことだ。そうならない理由が色々あるんだろうけど。
 
 そのためには「~することができる」って表現を、「~できる」って表現に替えるべきだと主張しておられる。なるほど。単純ではあるけど、有効だと私も思う。この考え方は毎回下らないネタで長々文章を書いている私も見習うべきだ…ってのはさておき、本当にそれで良いのか?これはきちんと検証するべきだと判断した。
 
 シミュレイションゲームのルールにおいて一番重要なのは「読みやすい・ルールを理解しやすい」ことではない。いくら読みやすくても、矛盾したことが書いてあったり、多彩な解釈が可能なのは困る。まずは全てのルールがきちんと説明されていることが重要であって、その範囲内で読みやすさを追求してもらう必要がある。これはゲーマーなら誰でも賛同してもらえる意見だと思う。
 
 そう考えると、「~することができる」と「~できる」は本当にイコールなのか、違いがあるとしてその違いは重要なのか、きちんと検証する必要があるのでは。こんなことは西新宿鮫氏もちゃんとわかっていて、検証の末出た結論だと思う。けど、ブログではその検証部分には触れていない。よって、私なりの検証をここで長々と書きます。とりあえずは例として挙げている「移動することができる」と「移動できる」は本当にイコールか?
 
 中間的な結論から述べよう。私には、「移動することができる」と、「移動できる」には立派な違いがあると思える。「~することができる」と「~できる」って表記すると違いはなさそうに見えるけど、これは区分けの仕方が適切でない。本来は、「移動すること」と「移動」の違いを追求すべきではないかと思う。ここには一応違いがある。
 
 どう違うのか?それを論じる前に、こちらから質問しよう。「移動」って何ですか?
 
 移動って言葉の意味は、まあ大抵直感的にわかると思う。ここではあえて「座標変更」って言葉に変換しておこう。後で説明するけど、そうする必要があるので。実は大抵のシミュレイションゲームでは、座標変更を行う方法が複数ある。主に移動フェイズに行う「移動」って奴と、主に戦闘フェイズに行う「退却」「戦闘後前進」ってものだ。他にもあったりするんだけど、今はちょっと放置。
 
 実のところ、ルールブックに出てくる「移動」って言葉は、これ自体が困りものである。意味を複数持った、多義的な言葉なのだ。1つは、さっき「座標変更」と変更したもの。「ユニットが、今存在するヘクスから別のヘクスへと動く行為全体」である。もう1つは、「座標変更のうち、移動フェイズに移動力を消費して行うものだけ」。よって、退却は「座標変更」だけど「移動」じゃない。平たく言えば、退却は移動だけど移動じゃない…ワケわからん。「座標変更」って言葉を導入した理由がわかってもらえたと思う。
 
 移動って言葉は多義的なので、使い方を間違うと大変なことになる。海上ヘクスサイドを超えて退却されても、「海上ヘクスサイドは移動できない」としか書いていない場合、「退却は移動と別でしょ?」って言われると反論材料に乏しい。「移動する代わりに塹壕が掘れる」などと書いてあった時、「じゃあ、退却する代わりに塹壕掘ります」と言われて反論できるか?ルールブックの字面からは難しい。
 
 実際問題で言えば、上記のようなことは起こらないのが普通である。ルールブックにはこういうことが発生しないよう、より慎重かつ厳密に定義してあるのが普通だから。ついでに言えば、ゲーマー間の「常識」も、そーゆーことはできないとなってる(はずだ)。
 
 とはいえ、私は「常識に頼るな」って意見の持ち主である。常識で判断してくれるでしょ…ってな考えに基づき、上記のような解釈が可能なルールブックを書いて欲しくない。これを防ごうと思ったら、移動って言葉の取り扱いは慎重になる必要がある。間違いなく。
 
 慎重に扱うって、どんな風に?まあ具体的方法論は色々あると思うけど、一般原則だけで考えた場合、「移動」って言葉の意味を狭く取るよう心がけるのが手っ取り早い。移動ってのは、移動フェイズに移動力を消費して行うモノだけだと。「移動」だけでなく退却や戦闘後前進も含まれる場合は、「移動も退却も戦闘後前進も行えない」と書くか、別の用語(進入とか通過とか)を使うぞと。こうすれば、混同による混乱から逃れることができる。
 
 しかしながら、ここには1つ問題がある。直感的に考えた場合、やはり退却も戦闘後前進もやはり「移動」なのだ。座標変更しているからね。正直に告白すると、ゲーマー同士の会話で「戦闘後前進でココに移動できる」などという言葉を何度も使ってきた記憶がある。ここで「戦闘後前進と移動は別だ」って反論された覚えはないなあ。「移動って言葉は移動フェイズに移動力消費してやるモノだけ」って概念は、ゲーマー同士に限定してさえ相当特殊なものと言えるのでは。
 
 ここで再び「移動することができる」と「移動できる」って言葉を見てみよう。単純に「移動できる」とした場合、どちらかと言えばだけど「直感的に思い浮かべる移動」ができるんだなと解釈されやすくないか?「移動すること」というフクザツでヤヤコシイ表現を使うことによって、「定義のややこしい、狭い意味の移動なんだよ」という警鐘を与えることができるのでは?そう考えると、「移動すること」って表現には意味があることになる。
 
 た・だ・し、私の最終的な結論は「でもやっぱり『移動できる』でいい」である。移動って単語は多義的であり、慎重な扱いを要する。「移動することができる」などという、私が偏執狂的な考察を行ってやっと違いを発見できた…などという表現を使ったからって、この問題は解決したと見なせない。もっと別のところできちんと厳密な定義を与えるべきだ。極論を言えば、「移動することができる」という表現を「移動でき、退却でき、戦闘後前進できる」とか、「移動できる。退却や戦闘後前進は無関係。」といった表現に差し替えるべき。ま、実際にはソコまでやらなくてもいいはずだけど。そして、別の部分でしっかりと混同を防いである以上、「移動することができる」なんて表現でなく、「移動できる」って表現で用が足りるはずだ。少なくとも理想はそうあるべきではないかと。
 
 余談だけど、一般的なシミュレイションゲームの「移動」に関するルールは、完成度が高めだと思う。最近のゲームは「このルールに従うと、海に戦闘後前進できちゃう」とか、「退却がキャンセルできちゃう」なんてコトはまずないからね。とはいえ、それでも解釈に悩むコトはある。移動妨害(航空機マーカーとか)と「移動力を消費するけど、マップ上の座標変更を伴わない行動」(塹壕掘りや隊形変更など)やオーバーラン後の攻撃側退却や戦闘後前進との関係なんかは、ややこしい解釈問題が発生しそうな気が。
 
 なお、多義的で扱いが難しい単語ってのは、「移動」だけじゃない…というか、ルールブックに登場するかなりの単語がそうだ。「マップ」だって悩ましいし、「ユニット」もよーく考えてみる価値がある。「戦闘」「突撃」「活性化」「回復」って、より具体的な意味は何なの?これらの用語の詳細な定義を常に明確にできるようにしたならば、解釈論争の一部は解決するんじゃないかと思うんだけど。ただ、それをやるのは大変だけどね。
 
 ゲーマーの大半は「プレイするだけ」の人なので、「ルールブックをどう解釈するか」ってことだけを問題にする。けど、本来は「どういうルールブックを書くべきか」ってなところ、つまり「ルール表現論」ってところも追求してゆくべきだと思うな。エラッタやらQ&Aなんてものは、少ない方がいいに決まっている。にもかかわらず、「それを減らすためにはどうすればいいのか」語っている人は少ない。まあ、語れる人が少ないだけって話はあるけど。ちなみに私は「語れない人」である。
 
 私が思うに、鮫形氏は「語れる人」に分類できる。だから、多いにこういうものを語ってもらいたい。こういう積み重ねこそが大切だと思うので。そんなわけで、長々とツッコミつつ紹介してみました。これからも建設的にツッコんでいきたいと思っているので、よろしくお願いします。返される覚悟はできてますよ(笑)。