5月21日2008/05/22 00:48

 諸般の事情により、本日は更新。水曜に更新するとは、珍しい。ま、代償もあるんだけどね。
 
 本日はまたも「ヒトラー電撃戦」の話題。いやまあ、最近コレのことで頭がいっぱいなので。本日は、「強襲上陸からの戦闘後前進」のルール解釈論を展開し、そのついでに「ルールブックの書き方」論に触れようと思う。
 
 このゲーム、テーマがテーマなので当然強襲上陸のルールがある。しかし、そのルールに関しては曖昧なところが多い。はっきり言って説明不足。よって、比較的詳しい「ルール解釈のやり方」を展開した上で、「具体的にどう処理すりゃいいのか」を考察してみる。なんでこんなことをするのか?そりゃもう、このゲームのルールブックが…(以下略)。
 
 ルールブックを読むと、強襲上陸についてのルールが少ないことに気がつく。ルールが簡単だから…ではない!明らかに省略しまくっている。このゲームの強襲上陸は「空軍を飛ばして橋頭堡を作る」「橋頭堡に部隊を海輸する」「海輸された部隊で戦闘する」の3ステップを踏んで行う。にもかかわらず、この3ステップを1つにまとめて説明している箇所がない。橋頭堡の作り方は空軍の項、部隊の輸送は海輸の項に説明があり、最後の上陸戦闘に関しては戦闘のところで軽く触れてある。
 
 この説明のドコが悪いのか?いやね、確かにコレでも説明にはなっている。しかしながら、「通した」説明がないので、色々と説明不足なんだよ。特に最後の戦闘の部分がヒドい。読みやすさを優先したんだろうけど、やりすぎだ。
 
 文句はこれぐらいにして、問題を示そう。具体的に問題になっているのは、要は「敵がいない場所に強襲上陸した部隊は、何歩戦闘後前進できるか?」だ。港のある平野に上陸した場合・港のある山地に上陸した場合・港のある湿地に上陸した場合・港のない場所に上陸した場合、それぞれ何歩戦闘後前進できるのか?これが不明確なんである。
 
 戦闘関連のルール(電撃戦及び一般戦闘)を読むと、「強襲上陸のみの特別処理」は戦闘比修正に関するものと、「港があり、なおかつ山地ではないゾーンに上陸した装甲部隊は、平野に対して追加の戦闘後前進が出来る」って特典を説明したものがあるとわかる。逆に言えば、これしかない。この「ルールがない」ことが重要。
 
 余談だけど、私が思うに「ルールがない時どう処理する」ってのは論争を産みやすい。要は一般的な処理に従えばいいハズなんだけど、「本当かぁ?」って話になりがちなので。よって、「読みやすい」ルールを意識するならば「冗長なルールは削るべき」なんだろうけど、私はあえて「全部書け。重複は当然と思え。同じコトを何度も説明しろ」と言いたい。そう意識してやっと「必要なルールが揃っている」ものに仕上がるんじゃないかな。
 
 さて、このルールから解釈すると…って、ちょっと待て。「強襲上陸時の戦闘後前進」のルール、ちゃんとあるじゃん。これに従えばいいのであって、ヤヤコシイ解釈論はいらないでしょ!…と思ったアナタ、鋭い。その通りだ。ただし、「だから」問題なのである。結論から言えば、私の解釈に従うと「港のある山地や港のない場所に上陸した場合でも、その先に一歩戦闘後前進できる」となるのだ。ルールに従っているにもかかわらず。
 
 どういうことか?理屈はこうだ。まず、装甲部隊を含めて強襲上陸部隊を編成する。そして電撃戦フェイズに強襲上陸攻撃を宣言する。敵がいないので、目標となった海岸に前進する。追加の戦闘後前進はできないので、ここで停止する。しかし、この次に一般戦闘フェイズがある。ここで隣接ゾーンに「カラ攻撃」を宣言し、そこに戦闘後前進する。こうすれば、「ルールに従っているにもかかわらず、上陸海岸の先に前進できる」ことになる。以上証明終わり。
 
 この理屈を読んで、「当たり前じゃん」と思った方はいい。問題は「そんな魔法みたいなコトできるのか?」と思った方。ルールにシッカリ「できねえ!」と書いてあることを実行に移したんだから、そう感じるのは無理もない。私も「できるんだろうな」と思いつつ、確信までは得られなかった。そこで、本当にこんなことができるのか、検証してみよう。
 
 まず問題になりそうなのが、「カラ攻撃」だろう。このゲームは敵のいない場所に攻撃して良いのか?結論は「できる」となる。日本語ルールでは、一般戦闘の時には「敵のユニットを攻撃」しなきゃイケナイように書いてあるけど、これは誤訳。原文では、「攻撃対象は隣接ゾーン」となっている。
 
 そもそもだ。カラ攻撃不能とすると、マズいコトが発生する。このゲームの強襲上陸は、「戦闘の一種」である。橋頭堡に海輸された部隊が目標の海岸に上陸されるためには、戦闘の手順を踏む必要がある。ということはだ。カラ攻撃不能なら、敵のいない海岸に上陸は出来なくなる。「強襲上陸の時にはカラ攻撃していい」ってルールがない以上、そう考えるしかない。なお、強襲上陸が絡まない場合、カラ戦闘はあまり意味がない。詳細は省略するけど、そういうルールになっている。
 
 強襲上陸した部隊が、電撃戦やって良いのか?これは「プレイの例」にあるとおり、やって良い。装甲部隊を含み、電撃戦可能な季節であり、なおかつ目標が電撃戦不能な土地でなければ、強襲上陸部隊でも電撃戦を宣言できる。そんでもって、電撃戦を行った部隊であっても、条件を満たせば続く一般戦闘フェイズに戦闘できる。「強襲上陸したら一般戦闘行えない」なんてルールはない。
 
 それじゃあ、「強襲上陸の時の戦闘後前進」に制限がある意味ないじゃん!いや、チャンと意味あります。「ル・アーブルに上陸~パリに前進」と、「スタヴァンゲルに上陸~オスロに前進」という場合を比較してみよう。私の解釈に従えば、上陸地点に敵がいない場合、両方とも戦闘後前進できます。しかし、上陸海岸に敵がいて、電撃戦だけで排除できなかった場合を考えてみよう。ル・アーブル~パリの場合、それでも装甲部隊は戦闘後前進できる。しかし、スタヴァンゲル~オスロの場合、スタヴァンゲルで停止する必要がある。この差は決して小さくないはず。上陸海岸に張り付いていると、反撃されたら後退不能の可能性が高いので余計な損害喰らうからね。
 
 私はこの解釈でいいのでは…と思っているけど、実は反論の余地がある。「港があり、なおかつ山地ではないゾーンに上陸した装甲部隊は、平野に対して追加の戦闘後前進が出来る」という制限は、電撃戦・一般戦闘通しての戦闘後前進制限では?というものだ。こう考えると、「電撃戦で上陸、一般戦闘でさらに前進」ってことはできなくなる。
 
 私が「ルールが足らない!」と吼えている理由はコレである。日本語・英文ルールブックを詳細に眺めて出た結論は、「この戦闘後前進の制限が、電撃戦・一般戦闘を通しての制限」である根拠はなかった。しかし、その逆、つまり「電撃戦で上陸しちゃえば、一般戦闘で戦闘後前進できる」って根拠も特別発見できない。この場合、現状のルールブックに従うなら、一般的な戦闘後前進の規定に従って「海岸の先に進める」と判断するのが正しい気がする。ただ、これがデザイナーの意図に従うモノなのか、ゲームバランスなどをオカシクしないのかと聞かれると…
 
 実は、さらに問題がある。先ほど私は「カラ戦闘はアリだろう」とした。これはいいんだけど、じゃあ具体的にどう処理するのか…って部分がオカシイ。ルールブックに厳密に従うとこうなる。防御側戦力はゼロなので、戦闘比が成立しない。仮に∞:1が成立するとしよう。これは明らかに7:1以上なので、7:1の欄で戦闘を解決する。よって、サイの目5・6が出ると攻撃側に損害が出る。ただし、8:1以上でもあるので、歩兵は装甲部隊同様の戦闘後前進が出来る…なんだそりゃ。
 
 上記処理はどう考えてもオカシイ。防御側の戦力が1の場合、「攻撃側1損害・防御側2損害」って戦闘結果は「防御側1損害」に読み替えるのに。戦力ゼロの場合、このような読み替えの規定がないのだ。これはルールがオカシイだろ。また、8:1以上の比率が成立した場合に認められる、「歩兵の特別な戦闘後前進」が可能かどうかもよくわからん。「常識」で考えたら攻撃側に損害は出ないわけだけど、歩兵が特別な戦闘後前進できるかどうかは「常識」じゃない。私は一応「できる」んじゃないかと思うけど…
 
 ルールがないだけならいい。矛盾までありやがる。「港があり、なおかつ山地ではないゾーンに上陸した装甲部隊は、平野に対して追加の戦闘後前進が出来る」ってことは、港のある湿地に上陸しても追加の戦闘後前進が出来ることになる。これは明らかに「湿地に侵入した装甲部隊は、それ以上戦闘後前進する権利を失う」ってルールと矛盾する。
 
 これについては、やや苦しい解釈を行った。このような矛盾がある場合、普通は「特別性の高いルールは、一般的なルールに優先する」って法則に従って考えた方がいい。しかし、この法則を当てはめると、「通常戦闘では湿地から先に戦闘後前進できないけど、強襲上陸なら可能」ってことになる。これは何かヘンだ。そこでまあ、「港のある湿地に上陸しようとした装甲部隊は、一応その先の平野に戦闘後前進する権利があるけど、実際に湿地に前進した(目標なので必ずソコに前進する)時点でその権利を失う」と解釈してみた。正直、苦しい解釈だ。
 
 なお、「港のない場所に上陸しても1歩前進できちゃうなら、港の意味が薄れる」という意見もあるけど、そんなことはないと思われる。結局港を占領しないと補給が来ないので。港をガッチリ守っていさえすれば、敵が上陸してきたところで意味は薄い。港がら空きなんて馬鹿な配置は、セットアップ時のフィンランド軍ぐらいしかやらない。
 
 ただ…私の解釈に従うと、イタリア半島を守るのが大変かも。「ナポリに電撃戦で上陸、ペスカーラに一般戦闘で戦闘後前進」ってコトをやられると、タラントを守っている部隊が補給切れに追い込まれるかもしれない。要は上陸されうる地点は「ある程度強い部隊で守れ」ってことなんだけどさ。
 
 正直言って、今回の解釈が「正しい」と主張するつもりはない。何かしら間違えている可能性は高い…ってのは認めるけど、そういう問題じゃない。解釈ってのは「多彩にできちゃうのが当然」であり、そのうちどれを採用すべきかは場合による…って性質のモノだから。本来ゲームのルールはそういう「解釈論」が展開不能なレベルにまで厳密に規定すべきである。だ・か・ら・私は常々「ルールブックには全部書け!」って主張しているのだ。削るべき冗長な記述が山ほどあるコトは認めても、必要な「一見冗長に見える記述」の方がもっと多いんだぞと。それを書き漏らすような奴が「読みやすいルール」語るのは早い。
 
 「ヒトラー電撃戦」に関して言えば、ルールブックはダメダメだと言わざるを得ない。日本語版が誤訳の嵐ってだけでなく、原文からしてダメだ。ゲーム自体は面白いし、興味深いんだけどね。つーわけで、私から何かしら救済措置をとれないか、考慮中だったりします。あまり期待しないで欲しいけど。

コメント

_ takoba39714 ― 2008/05/22 23:38

拍手。
ただ、私も気をつけているつもりですが、第3者に指摘されて始めて気がつくことも往々にしてあります。
この記事がこのゲームのルールブックの完全版に至る礎になることを願います。

_ F男 ― 2008/05/24 02:22

>ただ、私も気をつけているつもりですが、第3者に指摘されて始めて気がつくことも往々にしてあります。

これはよくわかります。今回の話でルールブック一般について言及した部分は、ゲームデザイナーに向けた話というよりは、デベロッパーやルールライター(デザイナーと同一かも知れませんが)に向けた話かも知れませんね。

_ 蒼き臥竜 ― 2008/05/25 12:15

F男さん、はじめまして。答えになるかどうかわかりませんが。
 
> カラ攻撃不能とすると、マズいコトが発生する。このゲームの強襲上陸は、「戦闘の一種」である。橋頭堡に海輸された部隊が目標の海岸に上陸されるためには、戦闘の手順を踏む必要がある。ということはだ。カラ攻撃不能なら、敵のいない海岸に上陸は出来なくなる。「強襲上陸の時にはカラ攻撃していい」ってルールがない以上、そう考えるしかない。
 
これについては、英文の明確化と訂正に「敵がいなければ橋頭堡上のカウンターは海岸に前進できる」とあります。カラ攻撃は不可の方が自然な気がします。

_ F男 ― 2008/05/25 21:05

>これについては、英文の明確化と訂正に「敵がいなければ橋頭堡上のカウンターは海岸に前進できる」とあります。
この訂正については、「電撃戦フェイズの戦闘後前進に明記してある規則を、一般戦闘での戦闘後前進に付け忘れただけ」の明確化だと理解していました。確かに、このルールがないと「戦闘後前進できる根拠は何だ」という質問に答えようが無くなる(電撃戦での戦闘後前進規則がそのまま一般戦闘にも適用されるとは、確かに書いてない)ので。カラ戦闘可能・不可を問わず、必要な訂正だと思われます。
その上で「カラ戦闘可能かどうか」を考察してみたんですが、英文ルールブックから解釈する限りにおいては、やはり可能だと考えます。しかし、これがデザインサイド(デザイナー及びデベロッパーなど)の考えと一致しているのかと言われれば、多いに疑問ですね。
なお、「カラ攻撃は強襲上陸の時のみ可能」だと解釈しても、その際の具体的手順が不明確(戦闘解決がどうなるのか、歩兵は装甲部隊同様の前進が可能なのか)であることに変化はありません。いずれにせよ、「カラ戦闘に関する記述は必要だった」のでは。

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