6月26日2008/06/27 01:30

 久しぶりに生物学の話題。この話題を書きたくなるモノに遭遇したので。とはいえ、あまりお堅くならぬよう努力しようかと。
 
 先日、トンボを見かけた。捕獲したワケではないので詳細は不明だけど。まだ梅雨なので時に肌寒さを感じることもあるけど、季節はもう夏なんだな…と感じた。つーわけで本日は「トンボの豪快な生き様」を語ってみよう。
 
 トンボってのは、良く出来た生物である。なにせ人間の祖先が両生類レベルの生活をしていた(と推測される)時代から生き残っているのだから。恐竜時代の化石トンボなんて、今のトンボとほとんど見分けがつかない。おそらくは人類が絶滅した後もトンボはトンボであり続けるだろう。
 
 私が住んでいる関東地方では、トンボは夏か秋にしか見かけない。これは何故かと言えば、実は「全滅」しているからだ。日本の関東地方ってのは、トンボが冬を越すには寒すぎるのだ。
 
 一口にトンボと言っても色々いるから、中には関東地方で冬を越せる奴もいるかも知れない。けど、一般論で言ったら全滅しているのだ。つまり、私が先日見たトンボは、去年見たトンボの子孫ではありえない。全く別の血を引くトンボである。
 
 トンボってのは、暖かくなるとどんどん「北上」してくる。暖かければ生息できるから。そうやって生息範囲をどんどん広げてゆき、その地で子孫を増やす。秋にトンボをよく見かけるのは、秋までは「子孫を産んで数を増やす」ことができるから。しかし、冬になると全滅してしまう。少なくとも関東以北では。そのため、春にあって暖かくなっただけでは、トンボを見かけることはない。トンボを見かけるのは、北上してくる奴らが辿り着いてからだ。
 
 なんでこんな生き様を選んでいるのかと言われたら…結局のトコロ、これが効率の良い生き方だからだろう。下手に「寒くても生きてゆける」なんて体になると、逆に暑い時期に対応できないことになる。冬ごもりは1つの手だけど、これはこれで問題を抱える。ライフサイクルが1年単位になってしまうのだ。昆虫の世界でこれは「無駄に長い時間」となる。単純に増殖することだけ考えたら、素早く成長してさっさと卵産んだ方がいいから。あえてそういう生き方を選ぶ生物も多い(人間はその代表だ)けど、それはトンボの生き方ではない。
 
 関東地方に辿り着いたトンボは、そこが「新天地」だと信じて、子孫を残す。その一部はさらに北上して、秋頃には「かりそめの繁栄」を迎える。しかし、彼らに決して春はやってこない。にもかかわらず、翌年には再び別のトンボが関東地方に辿り着き、同じコトを繰り返すわけだ。ずっとずっと。おそらくは何億年も前から似たようなことを繰り返し、人類滅亡後も続けてゆくのだろう。
 
 「子孫を残す」ことは生物最大の使命だ。その観点に立てば、関東地方に辿り着いたトンボに未来はない。せいぜい2~3世代の子孫を残し、断絶する。お先真っ暗だ。ただし、トンボって種全体で考えた場合、これは無駄にはならない。トンボって種が生き延びてきた期間を考えれば、辛い環境のおかげで数を減らした時代もあっただろう。「大量絶滅」を何度も経験しているはずだからねえ。にもかかわらずトンボが今もいるのは、子孫断絶覚悟で新天地に挑む能力があったおかげで、環境が回復した時に素早く数を増やせたからではないかな。
 
 人間の小賢しい知恵で考えると、関東地方にやってくるトンボってのは「刹那的で、利己的で、ついには子孫断絶する愚かな存在」って気がする。でも、それがトンボの生き様であり、結果として数億年もの間生き延びてきたって実績がある。この実績は、生物学の世界では果てしなく重い。
 
 先日のトンボは、おそらく子孫断絶の憂き目に遭う。いくら地球温暖化が進んでいるとはいえ、あと半年後に「寒い冬がやってくる」のは間違いなさそうなので。ただ、「冬なんて来ないかも知れない」って賭けにチャレンジする馬鹿が山ほどいたからこそ、トンボは今も生き残っているのだ。その生き様は尊敬に値するね。
 
 ただ…だからって人間がこの生き様を真似するのはどうかと。万馬券は買わないと当たらないけど、賭け続けて破滅するのは…人間、知能ってモノがあるんだから、有効に使って破滅は避けないといけないよね。色んな意味で無謀な賭に出るのは控えた方がいいだろうな、私の場合…