5月7日2009/05/08 03:49

 5月5・6日はMiddle-Earth東京支部の連続例会。本日のネタは、そこでプレイしたゲームの中から、「河越夜戦(仮称)」について。今まであえて語るのを控えてきたけど、プレイしたからには思いっきり語ってしまいましょ。
 
 河越夜戦(仮称)は、龍虎殿がデザイン中のゲームである。テーマは戦国時代の河越夜戦。武蔵に進出してきた北条に対し、「生意気だ」と連合を組んだ反北条勢力(山内上杉・扇谷上杉・古河公方)8万が包囲する北条方の河越城(今の川越)に対し、北条方が8千で夜襲をかけ、見事撃退した戦いを扱ったゲームである。
 
 このゲームのテストは今まで何度も行われていて、その話は私も聞いていた。そこで私なりに言いたいコトはいっぱいあったけど、「ビシビシ言うのはプレイしてから」と決めていたので、今まで黙っていたのだ。初っぱなの感想としては、「よくもまあ難しいテーマを選んだな」かな。古今東西色んなテーマのゲームがあるけれど、「奇襲した側がボロ勝ちした戦い」を面白いモノにするのはタイヘンだからね。
 
 もう1つ気になったのは、基本システム。実はこのゲーム、基本システムはPGGシステムなのだ。PGGシステムと言えば、第二次大戦の機動戦を再現するためのもの。それが戦国時代の戦いとマッチするのだろうか?たとえ「ゲームとして面白い」ものであったとしても、プレイヤーが「戦国時代の雰囲気」を味わえないのだとしたら、正直私は高く評価できない。何をもって「戦国時代っぽい」と考えるのかは個人差があるとしても、とりあえず私の目にどう写るのか、気になっていたんだよね。
 
 更に今回、実はかな~り「意地悪な」テストをやってみた。初めてこのゲームをプレイする私が、反北条方をプレイしてみたのだ。この手のゲームでは、奇襲をかけて大勝利した北条方が「プレイして楽しい」のはわかる。問題は奇襲を受けた側、史実でボロ負けした側が楽しいのかだ…と、「戦国ゲームフリーク」の有楽斎殿がおっしゃっていたので。実際このゲームが世に流通した場合、「初めてプレイしたのが反北条方」ってプレイヤーが出現するのは当たり前のことなので、あえて私がモルモットを引き受けてみよう…と考えたのだ。
 
 ここで結論を言おう。このゲームはどうなのか?私の評価は、「一応戦国時代っぽさは出ているし、反北条方も楽しめる」である。多少私なりに「こうした方が良かったかも」って部分はある(それはむしろ当然だ)けれど、全体的には悪くないのでは。あくまで私個人の見解としては、「とりあえずデザインしてみました」って段階の次を真剣に考えていいんじゃないかと思われる。
 
 理屈はこうだ。私が気になっていたのは、PGGシステムの特徴の1つ「戦闘結果を損害・退却のどちらで処理しても良い」って部分。このルールが戦国時代っぽいのかと聞かれれば、直感的には「違うんじゃないか」って気がする。安易に「退却すれば損害が減らせる」なんて、戦国時代らしくないだろうと。
 
 ところがだ。実際プレイしてみると、実は両軍とも安易に退却って結果を選べない。反北条方の場合、安易に退却すると混乱してしまう。これだけなら「損害喰らって壊滅するよりマシ」だけど、連鎖後退を強いられると他の味方も混乱してしまうので、「だったら壊滅でいい」って局面が出てくるのだ。北条方にはこのルールはないけど、その代わり「スタックを崩さなくてはイケナイ」という、かなりキツい代償が生じている。
 
 これはつまり、このゲームは「退却か損害か選べる」のではなく、「代償を覚悟の上なら、退却してもいい」だと考えれば、チャンと戦国時代っぽく感じられるのかな…ってことだ。指揮している侍大将が、最後まで「かかれ!」と絶叫しているのか、それとも「引け引け!」と言っているかの違いってワケだ。少なくとも私は、「これなら戦国時代のゲームを名乗って問題ない」と思った。
 
 懸念材料その2である「反北条方は楽しいのか」って部分だけど、これも合格点を出せるような。反北条方は「兵が不甲斐ないのを覚悟の上で、とにかく相手の進撃を妨害して損害か退却を強要し、相手が退却して足並み乱したら、更に兵をつぎ込んで回復のいとまを与えない」ってな戦い方をすれば、なんか「らしい」し、プレイしていて楽しい。単に逃げ惑って終わりではなく、「ある程度の無茶は承知の上で、逆襲していかなくてはならない。でも、兵はドンドンやられちゃう」って部分に、「奇襲を受けた側の苦悩と楽しさ」が出ているんじゃないかなあ。
 
 今回のゲーム展開は「北条方は城と連絡を回復し、史実同様の大戦果を挙げたけど、北条方の損害もかなりなもの」って感じになり、北条方にしてみれば「目的は達成したけれど、正直勝った気がしない」、反北条にしてみれば「敗れはしたけど、頑張った」と思う。この結果を「引き分けもしくは反北条方辛勝」ぐらいになるよう勝利条件を調整すれば、お互い「何を目指してどう戦えばいいのか」が明確になり、ゲームとして成立するんじゃないかと。その意味で言えば、私のプレイは「デザインの参考になった」ようであり、デザイナー兼対戦相手の龍虎殿にとっても実りが大きかったようだ。それは嬉しいね。
 
 あえて私なりの改善提案をすると、退却のルールはもっと「お互いにとってキツい」ものにした方がいいような。現状ではPGGよろしく「オーバーランされた時のみ、退却したら混乱」となっているけど、反北条方は通常攻撃の時でも「退却したら混乱」でいいような。通常攻撃されて退却した時、「混乱しないのはラッキー、でも何か違うなあ」と思ったので。その代わり、北条方は「退却したら、追加退却してでも常にスタックを崩す必要がある」とすれば、より「損害か退却か」のジレンマが増して「楽しく苦しめる」ような。
 
 あと、反北条方は戦力未確認ユニットを使っているけれど、これは現状あまり機能していないような気がする。よって、いっそのことこれをやめて、「表の戦力は同じだけれど、一部のユニットはステップロスで耐えられる」(つまり、表の戦力は全部同じだけれど、一部ステップロスしても戦力があるユニットがいて、配置はランダム)とした方が、反北条方に「ダメモトで退却せずに耐えてみようかなあ…」って誘惑を与えて面白い気がする。現状のままでもいいとは思うけど、「こうした方が…」って提案自体はあって困るモノじゃないはずなので、あえて書いてみました。
 
 なお、最終的な結果は「一応反北条の私が辛勝」だろうって結果になったけど、これはあくまで「運が良かったから」だと思っている。作戦面的には大いに不満が…特に、扇谷上杉朝定を大兵力と共に安全なところへ待避させた部分が、自分としては「何やってんだ!」である。危険を承知で逆襲に投入していれば、結果的にもっとこちらの犠牲が少なくて済んだ気がして仕方ない。もっとも、大将と最小限の守備兵力だけ残して「あえて前線に投入しまくった」山内上杉家は「大将以外ほぼ壊滅」しているわけだけど。
 
 「川越城見学ツアー」に参加した方々(私は飲み会だけ参加)によると、「上杉朝定最期の地」にある寺に、「油断しきっていた」から負けたんだと堂々と書かれていたんだとか。まあ、そう言いたい気持ちはわかる。わかるけど、このゲームをプレイしてみた身としては、それは可哀想かなと思う。細かい逸話までは残ってないので何とも言えないわけだけど、ひょっとしたら「奇襲を受け、あわてて逆襲したんだけど、武運拙く討ち取られた」だけかもしれない。このゲームでは、上杉朝定を「危険を承知で投入すれば、北条氏康を討ち取れるかもしれない」(実際私はステップロスはさせた)という誘惑があり、それに負けて実際投入して戦死したら、「これでもやっぱり『油断しきっていた』って書かれちゃうんだろうな…」と、ちょっぴりブルーになれる(苦笑)。その意味では、良くできているんじゃないかなあ。
 
 次にやってくる段階、すなわち「いかにして世に出すか」についても、少し意見を述べておこうかな。ゲームのコンポーネントは「特に問題ない」と思うので、雑誌付録を狙って応募してみる価値はありそう。世間的には「新人デザイナーの第一作」扱いになるので、コマンド誌よりはGJ向きか?ただ、「ウォーゲーム日本史」の付録にとしては「重くて向いてない」気がする。あと、同人としてコミケで販売するのも悪くはない。その時には私も色々協力できるんじゃないかと。「ゲームをデザインする」という一番大変な部分は乗り越えたとしても、まだまだやるべきことはあって、しかもこれはこれでタイヘンだと思う。ここでメゲないよう、踏ん張って欲しいですね。
 
 とまあ、基本的には褒めまくったわけだけど、これはあくまで「私個人の感想」だ。ネット上で「口コミに見せかけた宣伝」が横行している…という評判が流れる昨今、この紹介も「ドコまで本音なのよ」って疑問を持たれても仕方ないかと。でも、とやかく言いたいのなら、「1回はプレイしてから」じゃないかな。つーわけで、皆様もプレイ機会を見つけてみて下さい。その前に、龍虎殿が「どーやって世間に流通させるんだ」って部分を解決しなきゃイケナイわけだけどね(苦笑)。真面目にどーすんですか?