10月5日 ― 2009/10/06 00:10
本日のネタは、食文化の話。何気ないニュースではあるんだけど、実はかな~り「深い」話だと思うので、珍しく採り上げてみました。
話の詳細は、こちらを参照して下さい。要は最近よくある「食品偽装ネタ」の1つ。比内地鶏の卵と謳っておきながら、実際は普通の鶏卵が3割ほど混じっていた…というもの。ただ、興味深いのは、この「偽装」は良くある「経費削減」のためではなく、「味がくどい」という客の要望に応えるためやったと主張しているのがミソ。
私は比内地鶏の卵の味なんて知らない。知っていたとしても、私の舌でどうこう語れるような違いがあるのかどうか、自信がない。ついでに言えば、味云々は「単なる言い訳」に過ぎず、実は経費削減・ボロ儲けが目的だった可能性は否定できない。それでも、ここではあえて「味に明確な違いがあり、私レベルでもソレはわかり、それが普通の鶏卵を混ぜた理由」だと仮定しよう。
普通、客は「美味いもの」を求めている。比内地鶏の卵かどうかなんてのは、「美味いかどうかを事前に判断する材料」に過ぎず、「美味ければそれでOK」のはずだ。まあ体に悪いとかいう話でもない限り。そう考えれば、「味がくどい」という文句が現実に寄せられた「比内地鶏の卵100%の親子丼」は「せっかく改善した味を、また悪い方に戻す」だけのような。確かに、普通の鶏卵使っている以上、「誤解を与える可能性がある」のは事実だ。でも、ここで改善すべきは「キチンと比内地鶏の卵を使う」ではなく、「普通の鶏卵混ぜて、最適な味にしました」と訂正するコトじゃないの?って気はする。
ただ、話はそう単純でもない。客の中には、一定割合で「美味いかどうか」より「比内地鶏の卵かどうか」が重要だって人間もいそうだから。美味いか不味いかは、実際食ってみないとわからない。味がくどかったとしても、「それがまたイイ」と思う客だっているはずだ。その辺を判断するためには、どこかで「比内地鶏の卵の味は、こんな感じです」と識別できる機会を設ける必要がある。アンテナショップってのは「それを判断するための場所である」と考えれば、あえて不評を承知の上で「比内地鶏の卵」にこだわる価値があるかもしれない。
とはいえ…こう言っては悪いけど、秋田県の「県食彩あきた推進室」とやらが、そこまで考え、ポリシーとして「比内地鶏を使うべきだ」と考えたのかどうかは、正直わからない。単に「普通の卵混ぜたのでは、宣伝文句にならない」とだけ考え、味よりも宣伝文句を優先させた結果としてこの決断に至ったとしても不思議はないし、むしろ自然だって話はある。味は実際食わないとわからないけど、「宣伝文句」は視覚・聴覚という「味より手軽に流布させられる感覚使って訴えるモノ」なので、より強烈に効くと思われるからねえ。
いや、ソコまで考えてすらいないかも知れない。「味を取るか宣伝文句を取るか」という決断は、容易に結論が出せるような問題じゃなさそうだ。そういう議論を展開するのは、色んな意味でかったるいのも事実。そこで、単純に「どちらが角が立たないか」を考えてゆくと…味を変えた場合、「県としてその味に責任もてるのか」って話になりかねないのに対し、比内地鶏の卵だけ使用すれば「そういうものなんだから仕方ない」と、いわば比内地鶏の卵の味そのものに責任転嫁できる。役人という人種(に限った話ではないと思うけど)がどちらを好むかは、言うに及ばずだ。
もっとも、味を変えた業者側にも責任はある。現実に文句が寄せられ、それに対応したのなら、胸を張って「比内地鶏の卵100%はかえって良くない。だから改善しました」と主張すべきだ。客のためを考えれば、「責任回避の方向に動きがち」な県を説得するべきだし、そもそも最初から表示を変えさせるべきだった。そこまで踏み込むのはちょっと…という気持ちはわかるけど、その程度の改善でしかないのであれば、味を変える意味も薄いって話になる。
「客にとってはどうあるべきなのか」も、ちょっと難しい。確かに、「味が劣ってしまう」は客にとって不利益だ。でも、「味のことだけ」考えた場合、別にこのアンテナショップでメシを食う必然性はない。あまり美味くないと感じたら、次は利用しないだけでいい。ド田舎じゃあるまいし、選択肢は山のようにある。それに対し、「比内地鶏を使っているモノにこだわる」のであれば、「この店は混ぜ物してあるので、別の店に行こう」と思っても、かなり難しい。都内ならばネットなどを使って調べまくれば見つかるかも知れないけれど、かなりの手間だろう。そーゆー手間を掛けないとすれば、秋田県まで足を伸ばすしかないのでは。これはこれで手間なのは言うまでもない。
ただなあ…味の話をすると、日本の消費者の一部に「アタマで飯食っている」奴がいるような気がするのは確か。高級料亭で出てくるから・「いい食材使っているから」・○×100%だから・国内産だから…といった「知識優先」で、それが本当に味を良くしているのかどうかは気にもしない…というか、そもそも区別が付かない奴がいるんだよね。そーゆー連中にとっては、「味を良くするため、普通の鶏卵混ぜました」より、「比内地鶏の卵だけ使いました」の方が都合が良い。
ついでに言えば、文章・言葉・映像といった、「本来味なんて伝えられない」メディアを使って味の話を展開する必要がある人間(要はマスコミだ)にとって、都合が良いのはどちらなのか。これは言うまでもない。そーゆー存在を一概に否定は出来ないけど、こうした存在が「アタマで飯を食う」人間を増大させてきたって側面は無視できない。
今まで見てきたように、この話は「実はかなり複雑」であり、単純に「偽装した業者が悪い」で片付けるのはどうかと思う。それこそ「日本社会の食文化のあり方」にまで関わりかねない。私自身も「どう考えるべきなのか」って結論は出しかねているし、コレをお読みの皆様の意見も、各個人の食に対する信条によって相当割れるような。
ただ、もしこの件に「悪い奴」がいるのだとしたら、私は偽装した業者よりも「県食彩あきた推進室」の方が悪いと言いたい。理由は単純。「味を取るか、謳い文句を取るか」という決断を強いられた場合、本来責任を取るのはこの部署だと思うので。ココが最初から「大切なのは味だ!お客様に喜んでもらってナンボだ!」って方針を持っていたのなら、「比内地鶏の味を完全に殺さない程度の改善」はむしろ歓迎すべきことで、変えるのは表示内容だって結論が速やかに出て、普通の鶏卵使い始めた時点で表示を変更しただろう。逆に「大切なのは謳い文句だ!それが比内地鶏の持ち味なんだから、味に文句付ける奴は放置しておけ!わかる奴はわかるはずだ」って方針があったのなら、そもそも「味に文句が出る」のはある意味想定内ってことになり、文句に対しても「調味料の改善なんかで対応できそうもない以上、放置しておけ」と調理側が判断して終わりになっていたはずだ。この件について、「今後は比内地鶏の卵だけ使う」とコメントしたのがこの部署である以上、「本来そうする責任があった」と認めたと見なせるでしょ。
客ってのは本来、「食ってみるまで味はわからない」ものである。それだけに、せめて「誰がこの味にすると決めたのか」って責任は明確にしてもらいたいと思う。まあ、普通は店もしくはシェフがそうするんだけど。ただ、これを徹底すると責任問題が生じるし、ある意味もっとマズいことに「手柄問題」が生じるんだよね。日本社会は「とりあえず『皆さんのおかげです』と言っておけ」って社会だから、手柄が明確化するとそれはそれで気まずいからなあ。今回の件は、実はそれが大きな理由じゃないかって気がしますね。
もっともだなあ。親子丼なんてもっと気軽に食うモノであり、比内地鶏がどうとかこうとかヌカすのは、「その時点で的外れ」って気がするのも事実かな。第一、私の舌じゃどーせわかんねーし(苦笑)。
コメント
_ Arch Support ― 2017/03/01 10:35
_ manicure ― 2017/03/21 20:24
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_ BHW ― 2017/04/13 22:31
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_ manicure ― 2017/05/03 17:15
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