9月24日2010/09/25 03:39

 ここ数日、何となく法科大学院の評価なんぞにハマっていた。法曹絡みのニュースが相次いだからね。そこでまあ、私なりの「法科大学院の評価方法」をお届けしようかと。なお、今回お届けするのは、あくまで「評価方法」のみ。個別具体的な評価には一切踏み込まないつもりです。
 
 法科大学院とは、新司法試験を受けるために必要なことを教えてくれる場。基本的に新司法試験を通過するため「だけ」に存在している。実のところ、これが問題を引き起こしているって話もあるんだけど、その辺は後ほど。つーわけで、法科大学院の評価なんてモノは、法務省のサイトで発表されている「新司法試験の合格状況」を見ればわかる。
 
 しかしだねえ。世間一般の人間、及びそーゆー方々向けの報道は「法科大学院の実態」なるものをカケラも知らない。それゆえ、色々誤解はあるんじゃないかと思う。私は何故か法科大学院の実態を多少知っているので、守秘義務に抵触しない範囲(つまり、その気になれば簡単に調べられる情報)で説明しておこうかなと。
 
 法務省のサイトに行き、新司法試験関連の情報を漁ると、比較的簡単に合格状況に関するPDFファイルを見つけることが出来る。このファイルの数値を表計算ソフトに読み込ませるのは、ちょっとしたコツさえわかれば出来る。後は適切な割り算をやらせれば、「法科大学院別合格率一覧」を作成することが出来る。とりあえず、ここまでは自力で出来たと仮定しよう。
 
 問題はここからだ。合格率を出すんだから、合格者数を受験者数で割って…というのは間違っていない。でも、その前に「受験予定者数」なる数字に注目して欲しい。これと受験者数を比べると、なんか結構大きな差があることに気がつく。つまり、「願書は出したけど、受験せずに逃げた」奴が結構いる、ってことになる。
 
 大学受験などでは、これは別に不思議でも何でもない。本命・対抗・滑り止めに練習台…といった理由で願書出して、実際は他の大学・学部の合格状況を見て受験取りやめる、ってなコトを行う奴がいるからね。けど、法科大学院卒業した奴は、新司法試験を受けるしか選択肢がない。そんな中で「逃亡」するとは、これいかに?
 
 種明かしをすると、どうやら「このまま受験しても、受からない」ってな理由で試験から逃げ出し、翌年以降に備える…って奴が結構いるようなのだ。もちろん「病気・怪我などによるやむを得ない受験回避」もゼロじゃないんだけど、それだけじゃこの数字は説明できないでしょ。あくまで噂レベルだけど、法科大学院が「卒業はさせたけど学力足らない奴に、合格率の足引っ張られるのを防ぐため受験しないよう指導している」って話まであるとか何とか。新司法試験って、「法科大学院卒業後5年以上経過、もしくは3回不合格」となるとアウト(受験資格が無くなる)なので、貴重な受験機会を浪費させないため…ってタテマエはあるけどね。
 
 この「逃亡率」は、「新司法試験浪人」の増加に従って年々上昇しているらしい。まあ、気持ちはわかる。いずれ頭打ちになるはずではあるけれど、当初の予想より高いところで固定されそうな感じだな。逃げた奴はまあ「不合格レベルの学力しかない」と推定可能なので、「真の」合格率は合格者÷受験予定者数で求めた方が適切って話があるのだ。ちなみに、今年の合格率はマスコミ発表で「25%ソコソコ」だけど、「真の」合格率は2割を切ってしまいましたとさ。うわ…大丈夫か。
 
 ちなみにこの「25%」って数字を見て、「法科大学院卒業すると、7割が新司法試験に合格する」って理想とほど遠い…って報道があった。これは正しいんだけど、実はイメージほどかけ離れているワケじゃない。理想は別に「浪人せずに」とは言っていない。受験機会が最大3回与えられるので、そのどれかで引っかかればいいのだから。今回発表された25%って数字は現役・浪人含めた合格率だから、それを使って単純計算すると、約58%の人間が合格する計算(「不合格率」を3乗して1から引いた数字)になる。3割そこそこの合格率だと7割程度に達するので、「ダメダメな数字」じゃないんだよね。コレは一応注意が必要。
 
 ただ…表の後ろの方に「卒業年度別合格状況」ってモノがあり、それから導き出した数字によると、「現役合格」しなかった受験生の「合格率の落ち込み」はかなり激しい。勉強する環境を確保するのもタイヘンだからなあ。さらに、学校に行く必要がなくなるので、引き籠もって勉強し続けて色々煮詰まって…ってなコトも多いんじゃないかと。この「卒業後の学生のアフターフォロー」は色々苦慮しているんじゃないかな。なまじ「ウチの生徒じゃなくなった」だけに、面倒見るって言っても限度があるだろうし。
 
 閑話休題。法科大学院の数字的評価に話を戻そう。新司法試験ってのは、選択式の「短答式」と、「論文式」の2つに分かれる。試験日はおおむね似ているんだけど、短答式で「必要な点数」得られた奴だけが論文式の採点をしてもらえる。論文式の採点期間はすご~く長く、しかもコッチの方が合格率が低い。その間学生は落ち着かない日々を送ることになる。ちなみに、その間学生がどーしているのかと言えば、勉強の日々を送るのが一般的。仮に合格しても、その後「落第があり得る研修」に叩き込まれるので、無駄にはならないし。
 
 ちなみにこの短答式、法科大学院の授業では「一切対策しない」のがタテマエになっていたりする。カリキュラムを見る限り、「短答式に合格するための授業」みたいなモノが見あたらないのだ。一応法学未修者(法学部などに通わなかった奴向けのコース)向けの授業がコレに当たるけど…つまり、法科大学院の授業ってのは「論文式で合格点を取る」もしくは「実際法曹になった時に役に立つ」ものばかりやっていて、短答式については「自習しろ」で片付けているのだ。一応自習支援はしているんだろうけど。
 
 このことから、実は「法科大学院別短答式合格率」なる数字(合格状況表から算出できる)は、法科大学院の「教育の質」との関連性は薄めで、実は「学生の質」を現しているだけ…って話がある。優秀な学生を確保するのも大事な仕事とはいえ、ある程度…どころか、かなりの割合が「母体となった大学の、法学部の評判」に依存するって話があるので、評判の高い大学の法科大学院が「優秀な生徒を多数確保できる」となるのも仕方ない。
 
 そうなると…ある意味最も「法科大学院の実力」を表しているのは、実は「短答式に合格した奴の、最終合格率」だって話はある。ちなみにこの数字、今回の総合平均は約35%。おおむね「合格率が高い学校はこの数字も高い」けど、結構ばらつきはある。個別評価に関しては言いたいこともあるけれど、ソレは流石に私の胸にしまっておこう。ミョーな評判ばらまくのは、私の本意じゃない。
 
 法科大学院&新司法試験ってのは、結構残酷な制度だと思う。旧司法試験からして惨い制度だったって話はあるけれど、安くない学費払って、その割に「短答式は自習しろ」と言われちゃうし、あげく「卒業後のアフターフォロー」はちょっと疑問が…もっとも、最大の問題は、そうまでして「新司法試験に合格しなかった」時、実質「だからどーした」だけで片付けられそうな資格しか得られない(一応博士と呼んでもらえるみたいだけど、実質は修士扱い)ってのが…なんかどっかで根本的に制度設計を間違えているんじゃないかって気はするね。その辺をキチンと分析したモノが欲しいんだけど、法曹は法曹で一般人にそんなモノを説明しようって意欲ゼロだし、一般人は「関係ないね」で終わりだし…
 
 とりあえず、本気で法曹を目指そうって学生(社会人でもいいんだけど)の方、まずは勉強うんぬんより、精神力を鍛えて下さい。心が強くないと、とてもじゃないけどやってられない制度だったりするので。いやこれマジに。色々書いてきたけれど、一応私は基本「法曹を目指す人間及び法科大学院」の味方です。だって、応援するだけならタダだから(おい)。

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