10月20日2012/10/27 23:26

 本日は、とある約束により「ゲームの勝利条件」について語る。ゲームルールの仕組み解説講座なので、専門性は極めて高いです。その点はご了承下さい。
 
 専門家向けなので、細かい説明は省こう。勝利条件というモノは、私に言わせると「はなはだしく誤解されている」と思う。基本的には「ゲーム終了時に、ドチラが勝ったのかを判定する基準」とだけ認識されているようだけど、実はもう1つ、より重要な意味があるというのが、私の見解だ。それは、「ゲームの進行を、デザイナーの想定した方向へ導くための動機」という役割だ。
 
 よ~く考えて欲しい。いわゆる東部戦線キャンペーンにおいて、独軍担当プレイヤーは何故攻撃に出るのか?確かに、攻撃しなきゃモスクワは獲れない。でも、大抵の場合攻撃したって獲れない。他の都市は占領できても、それだとゲームは「ドイツの勝ちです。おめでとう!」で終了したりしない。そうすると、最後はベルリンを巡る攻防に持ち込まれる。だったら何故攻勢に出る?最初から守ればいいではないか。
 
 このような「かみ合わないプレイ」にならないよう、普通は勝利条件って目標が与えられ、お互いがソレを達成する方向でゲームを進めることにより、「マトモな」プレイになる。これは勝利至上主義うんぬんとは関係がない。そりゃあね、「ぼくのだいじなそうこうぶたいがしぬのはいやだぁ」ってな思惑から、バルジの戦いを扱ったゲームなのに独軍が攻勢に出ない…なんてプレイをするのも自由だ。けど、対戦相手はソレで楽しめるのか?「勝ちにこだわる」と「勝利条件を追求する」は似ているようでいて、全くの別物だ。前者の否定は「負けという判定だと認めるけれど、気にしない」であるべきで、「勝利条件なんて気にしなくて良い」であってはならない。ソレを認めると、マトモなプレイが成立するかどうか、怪しくなる。
 
 この世には、自分勝手な勝利条件を追求して良いゲームがあることは事実。テーブルトークRPGがそうだよね。ただ、アレはマスターという「権限の大きい裁定者」がいるから、話にまとまりが出るのだ。ウォーゲームにそんな立場の人間はいない。それに代わるのが「ルールで定められた勝利条件」だ。つまり、勝利条件とは「適切な、面白いプレイにするためには、どんな方向でプレイすれば良いのか、定義する」役割もある。このことは、当たり前すぎて軽視されていると思う。
 
 そもそもだ。時々問題になる「勝利にこだわった結果生じる、論外なプレイ」が発生する原因は、「勝利条件がプレイヤーの目標設定に失敗してる」ことが第一要因であることが多い。まずゲームでやらせたいことと勝利条件の間に食い違いが生じていて、ソコを「勝利至上主義」の人間が利用した結果そうなる…というわけだ。逆に言えば、勝利条件が適切な目標設定に成功していれば、勝利至上主義者と言えども「マトモなプレイ」をする。それが勝つための手段であり方向性なんだから。勝利至上主義的な態度を擁護するつもりはないけれど、問題点をプレイヤーの態度にだけ求めるのはむしろ不毛だと思う。
 
 実際問題として、再現性が強く求められるウォーゲームでは、「目標としての勝利条件」は、「判定基準としての勝利条件」より重要である。攻撃側がボロ負けした戦いを考えてみると良い。最終的には猛反撃喰らって開始線より後方の都市を占領されたからって、ソコを守りきれば勝ち…なんて勝利条件にしたら、誰が攻撃するというのだ。流石に最終目標(大抵遠大すぎて達成不能)の達成を勝利条件にしろとまでは言わないけれど、せめて「攻撃しなければ達成できない」モノを勝利条件にする必要はあるだろう。その結果バランスが悪くなったとしても。個人差はあるだろうけれど、私は「奇跡でも起きなければ達成不能」って勝利条件でも許容範囲だと思うくらいだ。ただ、コレだと「どっちにせよ達成不能なら、攻撃してもしなくても同じなのでは?」って話になりかねないので、やはり「攻撃すれば希望はある」って程度に留まるよう、勝利条件を設定する必要はあるんだろうな。
 
 こうやって考えてゆくと、実は「勝利条件が遠大すぎて、バランスが悪い」という非難は、それだけ取り出してどうこうって話をしても無意味となる。デザイナーが「多少無理でも、ソレを目標にプレイしてもらう必要がある」と考えたならば、それはそれで適切な勝利条件だからだ。もちろん、「目標設定がキチンとされていて、なおかつ勝率が五分五分」がベストではある。ただ、それを達成するために「グチャグチャしていて、初見の人間はまず理解できない」とか、「丁寧に設定しすぎて、プレイの幅がない」なんてシロモノになっても困っちゃう。勝利条件とは多角的な視点から善し悪しを論じるべきであり、バランス云々はその一面を取り出しているだけに過ぎない。極端な話、万人に支持されるような勝利条件の設定が難しいのであるならば、立ち位置の違う人間から強い非難を浴びるような勝利条件を設定することもアリだろう。少なくとも私はそう思う。
 
 この「勝利条件の問題」は、私にとっては他人事じゃなかったりする。コマンド誌107号掲載の私の記事「空母決戦指南」で、勝利条件の改定を提唱したからだ。直接的な動機は、複数の人間から「バランスが悪い?じゃあプレイする価値無い」って趣旨の発言(直接ココまで強く言われてないけど、要約すればこう表現するしかない)を聞かされたから。言いたいコトは良くわかる。こんなコト言われちゃう以上、やはりバランスが悪いゲームってのは、それこそ「欠陥商品」呼ばわりされても当然なんだろう。そんな主張をする人間にもプレイしてもらおうと思ったら、なんとかバランスを取るしかない。
 
 手直しするとすればドコになるのか?このゲームはルールが単純(使いこなすのは難しいけれど)であり、ユニットの戦力やシステムをいじってどうこう…というのは、影響が大きすぎて破綻する可能性がある。だとしたら勝利条件をいじるしかない。けど、何故こんな勝利条件になっているのか、その理由もよくわかるのだ。更に、目標が変化することにより、プレイヤーの行動が滅茶苦茶になっても困る。成功しているのかどうかはともかく、その辺はキチンと考慮したつもりだ。安易に「バランスが悪い?じゃあ調整しよう」だけで改定したつもりはない。
 
 勝利条件の改定も大変だったけれど、よりタイヘンだったのは、原稿の中に「勝利条件を改定しても大丈夫な理由」を盛り込むことだった。嬉しいことに、これはある程度成功したんじゃないかと思われる。勝利条件の改定については、前編が1行も完成してない段階から「そこまで踏み込むこともあり得る」って構想があり、それを編集部に伝えたところ、「慎重に」って趣旨の発言が返ってきた。安易に直すなってことだね。にもかかわらず、改定を盛り込んだ後編の原稿を送りつけた後は、拍子抜けするほどアッサリ「問題なし」で通った。単に面倒くさかっただけかもしれないけれど、私としては「原稿内に散りばめた、改定についての説明を兼ねている部分」を評価してもらえたのかなと。とりあえず、安易に直したわけではないって部分が伝わったのであれば、これに勝る喜びはない。
 
 自ら改定を提案するくらいだ。ある意味では、私は「太平洋空母決戦」には欠陥がある!と主張したことになる。けれど、それを認めた上で、なおかつこのゲームはプレイして面白い、プレイする価値が大いにある…これが私の主張である。何故そう思うのかは、私の原稿を読んでもらえば、わかるはず。筆力不足からわかってもらえない可能性もあるけれど、本来盛り込めて当然の要素でしょ。だいたいだなあ、発行元自らが「どのようにプレイしたらよいゲームか掴みにくい」(「空母決戦指南」前編キャプションより引用。ちなみに私が書いた文ではない)ってな「欠陥がある」と認めているモノを擁護して欲しい、と原稿依頼が飛んできたのだ。程度問題はあるにせよ、その辺を何とかできそうだ…って期待(重かった…)をかけられていたはずである。「そんな難しいモノを任されたんだぞ、わかっているのか?」ってプレッシャーを自分にかけた。
 
 個人的な意見だけど、私は「本当に惚れてるモノなら、悪口をすらすら言えて当たり前」だと思っている。「完璧。欠点なんて見あたらない」なんて台詞は、一時的興奮から目が眩んでいる人間のものではないかと。仮に本当に欠陥がないんだとしたら、それは多分面白みもないと思う。立ち位置の異なる人間にしてみれば、ここは欠点と見なされるなあ…って部分をシッカリ理解できてこそ、本当の意味で惚れていると見なすべきじゃないかな。そう考えないと、保管場所をやたら食う・プレイ時間は長い・相手見つけるのに苦労する・ルール覚えるまでが大変で、使いこなすのはもっとタイヘン…という、欠点だらけのモノを趣味になんかできませんよ(苦笑)。

コメント

_ manicure ― 2017/05/04 07:06

Incredible! This blog looks just like my old one! It's on a totally different topic but it has
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