12月23日2009/12/23 22:51

 コミケの「予定」が決まらない…いやまあ、想定の範囲内ではあるんだけど。それでもものすげーカリカリきてます。
 
 そーゆーわけで、本日は比較的気楽に語れるネタを。日本人宇宙飛行士が利用した記念ってことで、ソユーズロケットを語ります。今更私ごときが語るようなモノじゃねえって気もするけど。
 
 ソユーズロケットは、疑いようもなく「大傑作」である。ド派手な実績こそないけれど、それでも「人類の宇宙開発史」において重要な位置を占める機体だ。特に、長年使われ続けた実績は太刀打ちしようがない。
 
 1段目に使われているRD-107ロケットエンジンは、怖ろしいことにスプートニク1号を打ち上げ、ヴォストーク1号でガガーリン少佐を打ち上げたモノと基本的に同じ。いくらロケットエンジンが「基本構造はむしろシンプル」とはいえ、今もって現役…どころか最前線で使われているとは。ある意味呆れてしまうね。
 
 ソユーズは確かに「大傑作」だけど、明白な限界も抱えている。コイツでは「月着陸」は無理なのだ。それは開発当時から、ある程度わかっていた。要は月着陸が可能なほど大きな質量を打ち上げるには、出力不足なのだ。RD-107ロケットにそんな能力がないってのは、おそらく開発当時からわかっていたことだろう。それゆえ、このロケットはあくまで「月着陸ロケットへのツナギ」として開発されたはずだった。
 
 しかし、ソ連は結局月着陸ロケットの開発に失敗した。技術的な問題もあったし、「どう頑張ってもアポロに先を越される」って理由もあっただろう。それを思えば、ソユーズが今も使われているってのは、開発当時のソ連からしてみれば「完全に想定外」だったはずだ。実際、米国の宇宙船でソユーズと似たような位置づけのモノは「ジェミニ宇宙船」になると思うんだけど、コッチはアポロに道を譲って退役している。
 
 しかし、ソ連/ロシアにしてみれば、「人間を宇宙に送り出す」機体はこれしかない。「宇宙空間で軌道を変更する」「何かとドッキングする」なんて基本的な機能は達成できているから、決して使い勝手が悪いワケじゃないし。宇宙開発が下火になった以上、いちいち新型ロケットを開発する必要も薄い。それゆえ、このロケットは「退役する理由」がなくなってしまった。だから、今もって使われている。
 
 ただ…「実績から来る信頼感」を得ようと思ったら、とにかく実績を積み重ねるしかない。逆に言えば、何であれ実績を積み重ね続ければ、コレが生じてくる。おまけにこのロケット、元がICBMだった関係からか「悪天候に強い」って特徴もあり、どんどん退役させる理由が無くなっていった。「多少の不満はあるけれど、全体的にはソコソコ使える」モノを置き換えるのがどれだけ難しいかは、今もってIE6が「現役」なことを考えればわかるんじゃないかな。
 
 とはいえ、普通は「新製品ゆえの良さ」を全面に打ち出した新作が、結局は旧作を駆逐する。開発に失敗しなければ。ソ連/ロシアは月ロケット開発に失敗、その後に選んだ「有人打ち上げシステム」は、スペースシャトルの構想を真似したブラン…最近の研究によると、ソ連はシャトルを「あんな贅沢品、軍事用にしか使えない」と思っていたらしいんだけど、にもかかわらず真似しちゃうのが軍事国家の悲しさ。ブラン開発にかかったカネを他に転用していれば、多分ソユーズ後継機がすでに誕生していたんじゃないかなあ。ただまあ、「軍事用途でなけりゃ、ソユーズがあるじゃん」ってな理由でブラン開発に踏み切ったのかもしれない。
 
 もっとも、シャトルに全てを託していた米国NASAは…そりゃあ、総合力で見れば今でも米国が「宇宙開発に関する技術は世界一」なのは間違いない。でも、次世代有人宇宙船については、色々問題が起きているようだ。とりあえず、最初の有人飛行は2015年以降って予定で、シャトル引退から5年以上の空白が生じる有様。しかも、これすら「開発が順調に進めば」の話だ。時代が違うし「有人宇宙飛行」って分野限定とはいえ、「スプートニクショック」並みのド派手な敗北だと思うな。
 
 ソユーズの基本設計は古臭いモノで、その限界もハッキリしている。にもかかわらず「大傑作」扱いされるに至った最大の理由は、「ライバルが勝手にコケたから」に過ぎないと言うことは出来る。ただし、コケたライバル達は皆「使い勝手」の部分が良くなかったのに対し、ソユーズは使い勝手がものすごく良かったのは否定できない。アポロ宇宙船はカネ食いムシだったし、スペースシャトルやブランもある意味ソレは同じ。限界をわきまえて使う分には使い勝手がいいから…ってんで黙々と実績を積み重ねていった結果、今の地位を獲得したのだと思う。
 
 新しいモノによって駆逐される旧製品…って図式が当たり前の世の中において、ソユーズのあり方はある意味異質である。技術者にしてみたら、「新製品が売れないほどの傑作はむしろ困る」って話になりそうだな。資本主義国が作った製品じゃないから仕方ないのかも知れないけれど(苦笑)。ただ、「何故ソユーズは傑作と呼ばれるようになったのか」を学ぶことは、製品開発やらサービス開発やらにとって参考になる気がする。「織田信長に学ぶ経営術」「坂本龍馬に学ぶ…」なんてモノ(これはこれで役に立つのかも知れないけど)より、ずっと。ひょっとすると、そーゆー発想が出てこないところが、「日本経営陣」とやらの問題点なのかも知れない(笑)。
 
 何はともあれ、ソユーズは今現在「最も安全に人類が宇宙に行き、帰還する方法」である。案の定、日本人宇宙飛行士も無事にISSに到着したようだ。ホントにタイヘンなのは帰還する時だって話はある(ソユーズが出した死者は全て帰還時。打ち上げ失敗例もあるけど、脱出に成功している)けどね。コレを機に、日本でももう少しソユーズロケットの偉大さが知られて欲しいんだけどな。知ってる奴は知っているけど、ロケットネタはどーしてもマイナーだからなあ…