4月29日 ― 2009/04/30 01:23
諸般の事情により調べたのと、前回デバステーターの記事に多めのコメントが付いたことを記念して?本日も兵器の評価ネタを。今回は「傑作なのか駄作なのか、心底よくわからん」機体として、MiG-25フォックスバットを採り上げようと思う。
MiG-25フォックスバットは、どう評価すべきなのか悩ましい機体である。開発者にそのつもりがあったかどうかはともかく、世界中が「この機体って、結局のトコロどーなのよ」って話に振り回されたからなあ。一般的には「大したことない」で片付けられることも多い(記憶が正しければ、「最悪」兵器に掲載されていたはず)んだけど、それだけで片付けるのはもったいないようなエピソードも多くて。
この機体が開発された理由は単純。当時米国はB-70ヴァルキリーという「超音速爆撃機」を開発していて、ソ連としてはこれに対抗できる迎撃機が必要になると感じていた。そこで、「速い、とにかく速い」ってな迎撃機としてこの機体が開発された。当時のソ連軍部が、「他の用途に使えるか」を気にしたって話は聞かない。
しかし、諸般の事情によりヴァルキリーは開発中止。「メインターゲット」がいなくなっちゃったわけだ。にもかかわらず開発・配備がストップしなかったのは、単純にフツーの迎撃機として「使えるんじゃないか」って話があったからと思われる。なにせこの機体、今の水準で見てさえ、「最高速度は戦闘機で一番」だからして。
しかしだねえ。色々技術が進んだ今の目で見ても「一番」ってことは、要は「そんなに急いでドコへ行く」って話になる。そんな性能必要なのかと言われれば…おまけにこの機体、最高速度を追求した代償として「扱いにくかった」らしく、大量配備されたワケでもない。当時のソ連軍関係者でも、「この機体は傑作か駄作か」と聞かれたら、「う~ん…」って黙り込んじゃうかもね。一芸に秀でていて、それなりに使い道があったのは確かだけど、そんな性能が必要だったかどうかは疑問だし、あんまり応用が利かなかったワケで。
面白いのは、「当時の西側」の対応だ。この機体の型番を「MiG-23」と間違えたあげく、「最前線に大量配備されてるらしいぞ」と誤認(MiG-23フロッガーって機体があって、コッチはフツーの戦闘機として大量配備された)し、あげく「ものすごく速くて、戦闘機としてもスゴいらしい」と大騒ぎをしたあげく、対抗できる機体を…ってんでF-15イーグルを開発した。何でこんな「誤解」をしたのかは、よくわかってない。一応有力なのは「F-15の開発予算を通すため」わざと過大評価したらしいとされている。まあ、「ありもしない大量破壊兵器」を口実にイラクへ攻め込んだ国のことだからなあ…
この「西側の幻想」が崩れたのは、有名な「MiG-25亡命事件」のせいである。ベレンコ中尉の乗ったMiG-25が、突然日本に亡命してきたのだ。そのおかげで機体の性能が詳しく判明し、西側が抱いていた「夢の高性能機」が大嘘だとバレたわけだ。この機体が「駄作」「最悪」呼ばわりされる理由は、この時の「抱いていたイメージとのギャップの大きさ」ではないかと。勝手に騙されて勝手に持ち上げていたとはいえ、現実見て感じた「ガッカリ感」は大きかったのだろう。
今の目で冷静にこの機体を眺めてみると、「当時の技術の枠内で手堅く作りつつ、最高速度を追求した」機体であり、傑作ではないけど駄作でもないような気はする。昔駄作の証明のように言われていた「レーダーに真空管使っている」(すでにトランジスタの時代は来ていた)も、開発時期や信用度を考えれば「驚くほど旧式ではない」わけで。ちなみにこの機体のレーダーは、真空管パワーなのかどーかは知らないけれど「滅茶苦茶大出力」であり、妨害電波で誤魔化すのはタイヘンだったと言われている。
しかしだ。「MiG-25亡命事件」の影響は、「この機体の性能が明らかになった」だけに留まらない。当時の空自はこの機体が「領空に進入しようとしている」ってんでスクランブルをかけた(当たり前だ)にもかかわらず、見事に迎撃に失敗。「気がついたら函館空港に着陸してました」という、シャレにならない結果に終わったのだ。これが「実戦」だったらどうなったことやら。
もっとも、これは単純に「空自が悪い」では片付けられない。当時の戦闘機は「低空の目標を探す能力(ルックダウン能力)」が低く、ちょっと飛行経路を工夫されると「見つかりません!」となるのがむしろ一般的だったのだ。つまり、空自の防空網がザルなら世界中の防空網がザルというわけで…おかげで、これ以降レーダーの開発がより進むキッカケにはなったようだ。
当時の空自は機体の質・量ともに「それなりのレベル」だと、その道に詳しい人間なら誰もが信じていたと思われる。それをあっさりくぐり抜けたというのは…何と言うか、これはこれで「偉大な実績」って気がする。太平洋戦争中に「空母から中型爆撃機を発進させる」という奇策によって行われた「ドーリットル空襲」に匹敵するような。どう考えても本来の使い道とは異なる上に、MiG-25もルックダウン能力は低い(当時はソレが当たり前)から、「自身の無能を自身の輝かしい実績で証明した」ことに…何だかなあ。
ちなみにこのMiG-25、一応の最高速度は「マッハ2.83」らしいんだけど、これはあくまで「それより速く飛ぶと、危険ですよ」って目安に過ぎないらしい。偵察型(武装がないので、軽いし「武器暴発」の危険がない)はかなりの無茶ができたらしく、中東では「マッハ3.2」「マッハ3.4」という、「レーダーの故障じゃねえか?」ってな速度を出した例があるそうな。歴戦のイスラエル空軍も、イーグル受領するまで「あれを迎撃するのは無理っぽい」と諦めていたようだ。これも立派な「実績」だね。もっとも、「イラン・イラク戦争で、F-14トムキャット(イラン所有)に墜とされたんじゃねえか」って説もある…って、迎撃戦闘機同士で戦っているんじゃねーよ。
もっとも、実績の「極めつけ」は、この機体が「ベトナム戦争終結後、米軍機を撃墜したと公式に認められた唯一の機体」だってことかな。湾岸戦争の時、米海軍所属のF/A-18CホーネットがMiG-25から発射されたミサイルに「食われた」と認められている。流石の米軍といえど「対空砲火やら操縦ミスやら」で失われた機体はあるわけで、その中には「対空砲火と戦闘機の共同撃墜」っぽいのもあるんだろうけど、ハッキリと「空戦で撃墜されました」って例はこれしかないらしい。当時のイラク空軍には一応MiG-29フランカーも持っていた(大半は「待避のため亡命」したようだけど)はずなのに、何でまたこんな機体に撃墜されたのやら。とはいえ、「たまたま」だけで何とかなるような相手じゃないのは確かだ。ちなみに被撃墜例としては、湾岸戦争当時F-15に、戦後「飛行禁止区域を飛んでいた」ってんでF-16に撃墜されているらしい。
ただ、この機体は本来迎撃機。主な敵は「核爆弾抱えた爆撃機」だったはずだ。その用途としての実績はまるでない…って、あってたまるか。実績うんぬん以前に、どんな結果になろうと世界が終わっちゃう。偵察機のSR-71ブラックバードを撃墜できなかったのは確かだけど、アレは相当特殊な機体だからなあ。もっとも、ルックダウン能力に欠けるのは間違いないので、B-1Bランサー爆撃機を迎撃できたかは疑問かも。
この機体の改良版であるMiG-31フォックスハウンドは今でも現役であり、あくまでソコソコではあるけど評価されている(比較対象がSu-27フランカーだからなあ)らしい。それを考えれば、この機体も「欠陥はあるけど、一芸には秀でているし、まあまあ使える」のではなかろーか。ただ、主な仮想敵が開発中止になり、その一方で「超高性能機」だと勝手に誤解され、実態が判明してからは誤解含めて大いにケナされ、どう考えても本来の用途とは違っていそうなコトで不思議と実績があり、逆に本来の用途ではイマイチ使えなかった気もするこの機体を、そんな言葉で片付けて良いのかどうかは…ただまあ、色んな意味で「記憶するに足る」存在だってコトは間違いない。
ちなみに私は、この機体のデザインは好きだ。いかにもゴツゴツしていてハッタリ効いているので。デカいミサイル(確か空戦用ミサイルとしては世界最大)を抱えているのもイカす。この点は間違いなく傑作だと思うんだけど。「戦闘機は見た目じゃねーだろ」とか、「アレを褒めるなんて、センス悪いんじゃ」って話を無視すればだけどね(苦笑)。
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