4月27日2009/04/28 01:57

 先日、「世界の『最悪』航空機」&「世界の『最悪』兵器」って本を読んだ。要は出来の良くなかった航空機&兵器について語っているんだけど…個人的にすご~く言いたいコトがあるので、ここで吼えさせてもらおうかと。
 
 これらの本で採り上げている航空機&兵器は、大半が「まあそう言われても仕方ないかな」ってシロモノである。しかし、中には「おいおい」ってモノがあるのも事実。特に「何でまた」と思ったのは、「兵器」の方に出てくるAK47だな。確かに欠陥があるのは、私も銃器関連雑誌読んで知っている。でも、世界には「この世の軍用ライフルは、『AKシリーズ』と『その他の使えないクズ』に分類される」と思っている人間が山ほどいるシロモノだからねえ…欠陥直してからやっと普及したモノ(米軍のM16がこれに該当するかな。ちなみに、M16初期型も「最悪」扱いされていた)とは、ワケが違う。
 
 でもまあ、AK47については「アホか」と笑って済ませられる。この本が何と言おうと、「傑作」であることは揺るぎないシロモノなので、「わかってないな」で片付ければいい話だ。でもねえ。「最悪呼ばわりは流石にかわいそうだ」ってモノがいくつか…そのうちの1つ、TBDデバステーターを「擁護」しようかと。
 
 デバステーターってのは、太平洋戦争で使われた米軍の艦攻である。要は空母から飛び立ち、敵艦に魚雷ブチ込むための飛行機だ。ただ、やや影は薄い。かなり早い段階で後継機のTBF/TBMアヴェンジャーに交替したからね。「最悪」認定されたのは、「ミッドウェー海戦の際、ロクに戦果を挙げず大損害を被った」からだとされている。
 
 確かにまあ、この航空機はロクな戦果を挙げられていない。第一線で使われたのは珊瑚海海戦の時とミッドウェーの時ぐらいだけど、どちらでも「大事な」働きはしてない。珊瑚海海戦では翔鶴・瑞鶴といった正規空母には命中ゼロ、ミッドウェーでは戦果ゼロで大損害を被った。それを考えれば、「傑作」と呼ばれないのは仕方ないかなとも思う。
 
 ただ、それは機体のせいなのかと言われると…大戦初期の米軍の魚雷は、艦載・航空機搭載含めて「クソ」って話があり、別に機体だけが悪かったワケではないような。それも含めて「最悪と認定した」のかも知れないけれどね。
 
 とはいえ、「ロクな戦果ナシ」は魚雷のせいに出来ても、「大損害を被った」のは、魚雷のせいじゃないでしょ。防弾装甲や防御用火力の不備なんかは「機体が悪い」わけで。それゆえ、「オンボロの役立たず」と呼ばれても仕方ない気はする。でも、あえて言おう。「最悪」呼ばわりは流石に可愛そうだ。
 
 元々、この機体は開発されたのが古かった。初飛行は…Wikipediaによると1935年。珊瑚海・ミッドウェー両海戦が起きたのは1942年だから、今時の感覚だとそう古くは感じないかも知れない。でも、時は戦争前、軍用航空機は日進月歩の時代。今時のPC並みの勢いでドンドン技術革新が進んでいたことを考えれば、旧式化していても不思議じゃない。
 
 しかもこの機体、登場した当時は「革新的な名機」だった。それは間違いない。「艦攻初の単葉引込脚の機体」だからね。日本はその1年後に複葉の96艦攻を作り、これが「時代遅れだ」ってんで、そのまた1年後に97艦攻(太平洋戦争初期の主力艦攻)を作ったんだから。英国に至っては、見た目はどう考えても時代遅れなソードフィッシュを有り難がっていた(いや、これはこれでいい機体だけど)くらいで、他の国には空母そのものが存在しない。
 
 どんな傑作兵器と言えども、技術の進歩を考えれば、晩年は必ずやって来る。デバステーターの不幸は、その「晩年」に実戦の機会がやってきたことだろう。米軍もこの機体が「そろそろ更新時」だってのはわかっていたので、後継機のアヴェンジャーを用意していた。珊瑚海海戦はともかく、出撃がもう少し遅ければ、ミッドウェー海戦の時、米空母に搭載されていたのはアヴェンジャーだったって話もあるくらいだ。そんな機体の戦果がふるわなかったからって、仕方ないのでは?それこそ、「大戦後半にヘルキャットやムスタングにボコボコにされた」からって理由で、零戦を「最悪」認定するようなものじゃないか。
 
 しかも、米軍はこんなロートルを過酷な任務に送り出した。艦攻ってのは重たい魚雷を抱えて低空を飛ぶ必要があるので、そもそも敵の直掩機(船を護衛する戦闘機)やら対空火力に対して脆弱な存在だ。理想を言えば、「護衛戦闘機が敵の直掩機を引きつけ、艦爆が傷を付けた敵艦に、トドメの一撃として魚雷を叩き込む」って使い方が望ましい。「宇宙戦艦ヤマト」で、ドメル艦隊が艦載機をどんな順番で送り込んだのか思い出して欲しい(苦笑)。にもかかわらず、ミッドウェー当時のデバステーターは、「護衛戦闘機はロクにいない、艦爆隊はまだ到着してない」ってタイミングでの攻撃を強いられたのだ。しかも、直掩戦闘機は「日本機動部隊の最精鋭」一航戦・二航戦の零戦。この条件では、97艦攻やアヴェンジャーでも、似たような結果に終わった可能性がある。
 
 もっとも、だからと言って「司令官がアホ」とはならない。日本空母機動部隊の隙を突けそうだってんで、多少の無茶は承知の上で攻撃に踏み切ったのだから。その結果が最後どうなったのかは、日本人なら覚えるべきですね。これが「歴史に残る英断」だったのは間違いないけど、そのしわ寄せがデバステーター隊に押しつけられちゃったのは事実だ。
 
 その上、デバステーターは頑張った。実はこの機体の欠陥として「航続距離が短い」ってのがあり、ミッドウェー海戦では「日本空母を攻撃できるかどうか、怪しい」距離からの攻撃を強いられた。にもかかわらず、実際日本空母に対して攻撃しているのだ。当時の米軍にとってみれば、「日本空母を発見できず、攻撃すら出来ない」より、「攻撃したけど戦果ナシ」の方がどれだけ有り難かったことか。日本軍がデバステーター隊を攻撃するため生じた隙に、「死の天使」SBDドーントレス艦爆隊が爆弾降らせて勝負が決まっただけに、なおさらだ。
 
 つまり、ミッドウェー海戦におけるデバステーター隊の「大損害」とは、「ロートル兵器に、それを承知の上でキツい任務割り振ったところ、最低限の仕事はしてくれた」代償として生じたモノであり、最終的な結果がどうなったのかも含めて考えれば、「機体含めて誰も悪くない」のではないかと思う。デバステーターが真の意味で「最悪の」機体であったならば、おそらく日本空母にたどり着くことすら出来ず、そのためドーントレスの急降下爆撃に対してもう少し対応しやすくなり、最初に襲われた日本空母3隻(赤城・加賀・蒼龍)のうち1隻ぐらいは難を逃れたかもしれない。これを最悪呼ばわりとは…正直、「なんか大切なモノを見失っていないか?」って気がしちゃいますね。
 
 航空機に限らず、「何かを評価する」ってのは難しい。単純に「勝ったから強い、負けたから弱い」だけじゃ語りきれないからね。そこがまた楽しいんだけど。ウォーゲーマーとしては、単純に表面的な勝ち負けだけじゃなく、もっと深い部分もキチンとわかろうとする努力が必要じゃないかと。デバステーターを含む米機動部隊に「してやられた」日本人としては、特にそう思うわけですよ。ついでに言えば、「誰が見てもド本命」の馬より、「皆が駄目だと思うけど、実は条件次第で走る馬」を探して喜んでいる身としても(苦笑)。

コメント

_ takoba39714 ― 2009/04/28 06:09

F男さんの分析に一票。
TBDの決死の突入がなかったら、SBDの成功もまたなかったかもしれません。

_ F男 ― 2009/04/28 21:55

空母戦に詳しい方から賛同をいただき、感謝しております。

ミッドウェー海戦については、どうしても「日本軍があの時ああしていれば…」って視点で語られがちですけど、米軍の戦いっぷりが見事だったことも忘れてはいけないことだと思います。
ただ、そのおかげで「シミュレーションゲームにしにくい」題材になっちゃった気もするのですが(苦笑)

_ Pinkerton ― 2009/04/29 14:28

時期の問題もありますよね。
44年の九九艦爆なんか(自主規制)……っていうことで。

_ F男 ― 2009/04/29 20:40

九九艦爆も「良い機体」なんですけど、流石に44年になると衰えが目に付きましたね。他にも、使われた時期や運用方法の問題から、「いい機体なのにダメダメな結果」に終わった例として、
・バトルオブブリテンに使われたスツーカ
・チャンネルダッシュに投入されたソードフィッシュ
・独ソ戦に使われたI-16
などがあると思います。

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