3月9日 ― 2009/03/09 21:57
本日のお題は、「PS3の開発環境」としておこう。何と言うか、ちょっと考え込みたくなる発言を目にしたので。元はSCEのCEO(まあ、トップと言っていい)が、「PS3のゲーム開発が難しいのは、意図的なものである。」という趣旨の発言をしたことにある。なお、あえてこの色の話題としておく。
何故SCEはPS3のゲーム開発を難しくしているのか?言い分はこうなる。もしゲーム開発が簡単で、誰でもPS3の性能をフルに発揮できるのだとしたら、残りの9年半(「10年使われる」って想定に基づいた発言だと思う)はどうするのか?って話になる。ゲーム開発が難しいのは、その代償としてハードに大きな可能性が眠っている…ってことらしい。
アナログゲームに携わってきた私に言わせると、当然「最初からPS3の機能フルに使えたとしても、9年半の間にやるべきことは山ほどあるはずだ。」となる。アナログゲーム、特にウォーシミュレイションゲームの「ハード」は、私の知る限りあまり進歩してない。細かく見れば色遣いが鮮やかになった(ケチって2色刷りにせず、フルカラーが当たり前になった)とか、紙の質が良くなったとか、細かい線画が使えるようになったとか、一応進歩はしている。けど、これを「本質的な違いだ」と感じる奴は滅多にいない。でも、この業界も一応、進歩する部分はかなり進歩している。決して歩みを止めてはいない。
それはあくまでアナログでの話であって、コンシューマーゲーム機では「ハード」が重要なんだ…ってのは、わかる。更に言うなら、人間には「慣れ」ってものがあるから、最初から機能をフルに発揮されると、それがどんなに素晴らしいモノであっても、みんな慣れてしまう。そうなった場合には「PS3の機能をフルに発揮しているかどうか」とは別の部分で勝負することになる。これがどれだけキツいことなのかは、ハード面の進化がほとんどないアナログゲーマーだからこそ、よくわかる。
ついでに言えば、アナログゲームの世界でも、ゲームの内容とは別の部分で「評価されなかった」品が山ほどある。コンシューマーゲームで言えば、ゲームそれ自体は面白いのに、「バグが惨い」「絵がチャチ」「シークタイムが長い」ってな理由でで売れなかったようなものだ。それを思えば、「あえてゲーム開発を難しくして、発展の余地を残す」って考えは、必ずしも無茶苦茶な話だとは思わない。こういう部分に進歩・進化がないと、ユーザーに見限られてしまう可能性があるからして。
とはいえ、やはりこの発言には「重大なカン違いがある」ってのが、私の意見。理由は単純。仮にプログラマーがPS3の性能を「ファミコンレベル」しか引き出せなかったとしても、それで面白いゲームを作ることは可能だ。でも、いかにPS3の機能をフルに引き出そうとも、クソゲーはクソゲー。「このゲームはクソゲーだけど、PS3の機能をフルに使っている」なんて評価をするのは、ごくごく一部のマニアだけだ。
そもそも、何でゲームメーカーは「PS3でゲームを作ろうとする」のか?PS3のハード性能が…って動機で開発決めるトコロは、滅多にない。要は「そのハードで作れば売れるから」である。「そのハードの機能を引き出せるかどうか」なんてのは、あまり重要じゃない。必要ならカネと手間と時間をかけるだけの話だし、それでもできないことは諦める。コンシューマーゲームの世界では、「勝ち馬に乗る」ことが鉄則であって、特別な事情(実は案外普遍的にある話だけど)がない限り、負け組ハードに肩入れする理由はない。ましてや、プログラマが「コッチの方が開発しやすい」「開発していて気持ちいい」と言ったから…なんて理由でハードを選ぶとは、とても思えない。
それゆえ、コンシューマー機は「勝つのはコチラ」だと思われ続ける必要がある。実を言えば、ハードの性能なんてモノは、この「このハードが勝者になるという説得力」として重要なだけであり、総合的な性能がいかに劣ろうとも、何かしら「勝てそうな」要素を付け加えることに成功すれば、逆転もあり得るのだ。それを端的に証明したのが「Wii」だね。
PS3は本来、負けるはずがなかった。PS・PS2の成功という前評判があり、総合性能の高さという評判もあった。なのに、何故トップから転落したのか?私は「何だかんだ言って、最初の価格設定を間違ったのが全て」だと思っているけど、開発の難しさも理由の1つかもしれない。初期にタイトル揃わなかった(開発が間に合わなかった)ことが、割高感を煽ったフシはあるので。
つまづいた理由は別件だとしても、なかなか再浮上して来ない理由は「開発が難しいから」かもしれない。勝てば正当化されたことが、勝てなかったことにより否定的要素として扱われ始めるから。競馬で言えばこうなる。阪神JF(暮れの2歳GⅠ)とチューリップ賞(先日やってた桜花賞トライアル)の両方で勝ち負けした馬であれば(ちなみに今年はブエナビスタが両方勝った)、血統がどうであろうと、鞍上が誰だろうと人気になる。これだけの実績があれば「だから良いのだ」って理由になりうるので。でも、そんな馬がいなかった場合、「親父が○○だから」「鞍上○○だから」って理由がより重要になってくる…ってことだ。
PS3が負けたかどうかはともかく、現状勝ててはいない。混戦に持ち込まれてしまったのは確か。それをふまえた場合、この発言は極めてマズいと思う。勝っているハードの性能を引き出すことに成功すれば、確かにそのプログラマーは賞賛され、尊敬される。けど、負けているハードの性能引き出したところで、「だからどーした」扱いされる可能性は高い。一部マニアにだけウケたって、売り上げに直結しないからねえ。
そのため、「勝っていない」ハードは、何とかしてソフト開発を楽にする必要がある。そうしないと、開発しようって話が出てこなくなり、デフレスパイラルに陥るからだ。大きな売り上げが見込めない以上、せめて手軽に開発できないとゼニが回らないでしょ。ゲームビジネス全体がデカくなった今となっては、プログラマーの知的好奇心を刺激するかどうかだけでゲーム開発を決められる時代じゃない。
結局PS3って、「中途半端」なんだと思う。ゲーム機にしては無駄に高性能で開発が難しい。PCと比べると汎用性がない。デジタル家電の制御をやらせたくても、制御する機器が揃ってない。あれもこれもやろうとして、どの用途にも使いにくいモノが出来ただけって気がする。それだけならまだしも、上層部はそんな現状をキチンと認識できてないのでは。
PS3については、「SONY上層部を入れ替えて、テコ入れしてくる」とか、「PS4(仮称)の基本設計がどうこう」といった噂が流れている。実際どうするのかはともかく、とりあえず敗因分析は徹底的にやってから考えた方がいいと思うな。なにしろ、「勝って当たり前」の戦いで勝てなかったのだから。ま、色んな意味で注目モノだと思うけど。考えようによっては、伸びしろも「縮みしろ」もまだ山ほどあるんだからね。本当にどうなるコトやら。
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