7月28日2008/07/29 04:36

 諸般の事情から、久しぶりに科学ネタを2本ほどやりたくなったので、そのうち1本は本日やることにする。とりあえず、本日は「水よりお湯の方が早く凍る」ってネタにしようかと。
 
 水よりお湯の方が早く凍る?一見意外に思えるかも知れないけれど、どうもこれは「事実らしい」って報告がある。冷凍庫にお湯と水を入れて比較してみると、お湯の方が早く凍るらしいのだ。1963年にタンザニアの中学生!であるムベンバ氏が「発見」し、69年に研究報告をまとめたそうな。実のところ、「理屈はともかく、実験してみるとそうなることが多い」って現象のようだ。
 
 なんでこんなネタを?と聞かれれば、某国営放送が某番組でこの話を採り上げてガッテンして、それを都の西北にある大学の、ゴルフ好きの某教授が自分のブログで批判したからである。つーわけで、私も便乗して色々語ってみようかと。
 
 まず、この現象について「本当なのか?」という疑問が湧く。これについては、非公式の実験は山のように行われ、そのうちかなりの例が成功しているようだ…って話を出しておこう。ハヤカワ文庫NFにあった、米国の「身近な科学的疑問にお答えする」ってラジオ番組をまとめた本(第一弾の「つかぬことをうかがいますが…」だったかな?)にも紹介され、「不思議だけど実際そうなった」ってな報告がいくつか紹介されている。実は結構有名だと思っていたんだけど。
 
 ただ、「何故そうなるのか」って理屈はよくわかってない。諸説あるんだけど、どれが正しいのかさっぱりわかっていないんだそうな。ただ、これは考えてみれば当然である。こういう「一般家庭などで起きる現象」ってのは、単純に見えても様々な要因が絡んだ、複雑な事象であることが多い。そこから「この現象が起きるのは、これこれこういう理由です」なんて原因を探ろうと思ったら、結構大変ではないかな。しかも、正直手間の割には「だからどーした」で片付けられそうな話だし。いくら科学者でも、ゼニにも名誉にもなりにくい「研究」はあまりやりたがらないからねえ。
 
 それにだ。実を言えば、「水が凍る」って現象は、「専門家は知っているけど、一般にはあまり知られてない」部分が山ほど存在する。たとえばだ。水から氷、氷から水って変化に必要な熱量は、同じ量の水を0℃から80℃!に変化させるのに必要な熱量と同程度なんだとか。ということはだ。この部分に必要なエネルギーを「効率良く取り除く」ことができるのなら、水よりお湯の方が凍りやすくても別段不思議ってワケではない。「トータルで2倍程度のエネルギー効率」なら、ちょっとした工夫で達成できなくもないからね。おかしいなあ。こんなことは某教授は知っていそうなモノなのに。まさかと思うけど、熱力学にはあまり詳しくないのか?
 
 さて、私の知っている「ムベンバ現象が発生する理屈」を述べてみよう。どれがホントか嘘かはわからないし、そもそもこの中に正解があるとは限らない。ただ、それを承知の上なら紹介してもいいんじゃないかなあ。
 
 まず考えられるのは、「冷蔵庫のパワーが上がるから」ってもの。「冷蔵庫のサーモスタットが刺激されて温度をより下げるようにするので、結果として冷蔵庫がよりパワーを出すから」ってのが代表例。ただ、これだけでは「水とお湯を同じ冷蔵庫に入れても、先に凍るのはお湯だった方」って説明にはならない。とはいえ、何らかの理屈で「局所的にパワーが上がりやすくなるのでは」って可能性はある。「冷凍庫の表面にある細かい霜が溶けるので、より熱が伝わりやすくなるのが原因ではないか」って提唱もあった。
 
 対流に理屈を求めたものもある。お湯の方が水より「周囲との温度差が激しい」のはわかるでしょ。その結果、対流の勢いが増しそうなものである。これが結果として「早く凍るほど冷えやすくなる」理由ではないかってもの。水は実は熱伝導率が極めて低い物質なので、この理屈は有力なのかもね。
 
 空気の対流が理由なのでは…って説もある。お湯は当然温かいから、その周囲の空気も暖かくなる。その結果空気が対流を起こし、結果として冷たい空気がより当たりやすくなるのでは…ってものだ。
 
 水は温めると溶けている空気が抜ける。これ自体は良く知られた現象だ。これが原因では…って提唱もある。一般に水の中に細かい不純物(要はゴミ)が含まれているほど凍りやすい…ってのは良く知られた話らしいけど、水に含まれた空気はどちらに作用するのか、キチンとした研究が行われたって話は(少なくとも私は)聞いてない。空気が多く含まれてると凍りにくいのかも…って意見は、ある程度説得力があるような。
 
 国営放送は、「気化熱が原因では?」って説を紹介していたようだ。水(お湯含む)は、蒸発する際に周囲から熱を奪う。お湯は気化しやすいので、温度が下がった際にも「気化しやすい状態が続く」のかもしれない。その結果温度がガクンと落ち…って説だね。
 
 分子構造の変化…って説については、正直何とも言い難い。某教授は「分子構造の変化なんて、ものすげーエネルギーが必要なはず」などと言っていたけど、そりゃー間違いである。核反応じゃあるまいし、「分子間の構造」を変化させるだけなら、必ずしも大量のエネルギーを投入する必要はない。だってそうでしょうが。氷と水と水蒸気は「同じモノ」だけど、分子間構造が一緒だとでも?同じだと言いたいのなら、どうして固体と液体と気体って違いがあるんでしょ?黒鉛からダイヤモンド(どちらも炭素)作るのが大変だからって、全てそうとは限らない。ただまあ、「水とお湯のビミョーな分子構造の違いがムベンバ現象の理由である」かどうかは、私の知識では何とも…
 
 残念ながら、私の知識はココまでである。自分で実験したことないからね(苦笑)。ただまあ、自分で実験したところで、これ以上のことはわからないでしょ。私に原因究明に繋がるような、本格的な実験が出来るとは思えないし。ただまあ、国営放送には私よりはマシな実験行うだけの財力と設備があるはず。よって、徹底追試してもらいたいね。少なくとも、冷凍庫にサーモグラフ付きカメラブチ込んで、水とお湯がどのように「冷える」のか観察する…って実験は出来るはずだ。これやるだけでもかなり違うと思うんだけど。他にも、「人が入れるほど巨大な冷凍庫でも同様の結果が出るのか?」「エアレーションして空気を多めに含ませた水と多少空気が抜けてる湯冷ましでは、どちらが早く凍るか?」「液体窒素などを使って超急速冷凍した場合、どんな結果が出るのか?」などなど、この現象の解明のため「やってみる価値がある」実験はあるような。なお、最後の実験はおそらくかなり危険なので、実行する場合は注意して下さい。
 
 なお、この現象、現状では「ある冷蔵庫にある成分(不純物などは含まれていると考えた方がいい)の水を入れ、比較的急速に冷凍した場合、水よりお湯の方が早く凍る場合が多い」としか言いようがない。よって、「ほとんど変わらない」「水の方が早く凍った」という実験結果が得られる可能性もある。更に、凍るのが早いからって「氷を作るために必要な電気代が節約できている」保障はゼロ…どころか、「サーモスタットが無意味に刺激され、電力を無駄遣いしている」可能性は高まる。この現象が起きる理由とは無関係にだ。よって、「理屈を解明してイグノーベル賞を受賞するのだ!」という野望(ムベンバ氏が受賞してないのは、むしろ不思議だ)があるのならともかく、地球環境と電気代を考えたら、とりあえず実行はオススメしません。電気を大切にね!