1月6日2008/01/06 23:41

 正直、まだ体調が復活しない。明日から仕事だってのに。ま、これぐらいの体調不良は良くある話なので、さほど気にしないようにしよう。一時期よりは遙かにマシなんだし。
 
 本日のお題は、「兵器としての90式戦車」を私なりに語ってみようかと。先日コミケで「車両としての90式戦車」を語っている本(MTH/創作同人「百」、サイトはこちらを見つけたので。いわゆる友人知人の作品なので、宣伝も兼ねて語ってみようかと。
 
 90式戦車。陸自の正式装備。国産。三菱重工製。120mm滑腔砲に複合装甲といった、「先進的な」装備を持っている。ある1点を除いて、評判は良いらしい。ちなみに悪い点は「値段がやたら高い」である。
 
 値段の点については、一応ある程度擁護しておく必要がありそうだ。兵器産業って観点から考えた場合、日本って国は「どーしても兵器が割高になる」のだ。その理由は「需要が半端だから」である。この「半端」ってトコロがミソかな。
 
 兵器ってのは、需要が多いワケではない。もちろん民間と比べての話だけど。そのくせどいつもこいつも「特注品」だ。需要と供給の法則を考えた場合、割高にしかならないでしょ。そこで兵器大国は、大抵輸出だのライセンス生産契約だのを考える。需要を増やせば多少価格を落とせるからね。
 
 自国の軍事産業を育成するのは大変だ。カネはかかるし、信用を得られないと売り込んでも買ってもらえないわけで。そこで、かなりの国がそんなことを諦めて兵器を輸入している。兵器の供給を外国に頼るのは問題が大きい(肝心なときに引き渡しを拒まれる危険がある)んだけど、「とりあえずの」体裁だけ整えておけば、ちょっとした紛争ぐらいは戦える。どうせ近隣諸国も似たり寄ったりの装備なんだし。
 
 ところが、日本は兵器を輸出できない。したらアジアの某国どころか、米国でさえいい顔をしない(商売敵が増えて喜ぶ奴がいるか?)からねえ。そのくせ、輸入兵器だけで帳尻を合わせる「なんちゃって」軍備で誤魔化すのは無理があるほど重要な国(経済大国なんだから当然だ)である。需給原則により割高になるのを承知の上で自国のみが装備する兵器を開発するか、足元見られて値段つり上げられるのを承知の上でライセンス生産契約を結ぶか…って話になりがちだ。ま、だからって日本の兵器産業に責任がないとは思わないけど。ただ、同じ問題は兵器を輸入するときにも生じるんだよね…だからこそ防衛次官が…(以下略)。
 
 多少値段が高くても、ある程度は仕方がない。問題は性能だ…としよう。90式戦車は「役に立って」いるのだろうか?う~ん…少し微妙としておこうか。これは90式戦車に限らず、米のM1エイブラムズや独のレオパルドⅡなども含めての話になる。こいつらは揃いも揃って「今後必要な戦車なのか」ちょっとビミョーなんだな。強い弱いだけ考えたら、こいつらは強い。その意味では役立たずってコトはあり得ない。しかし、兵器ってのは強い弱いだけでは語りきれないからねえ。
 
 これら「戦後第三世代」の戦車ってのは、基本的に戦車同士が殴り合った時に勝つことを目指して造られている。「戦車に対抗するには戦車」ってのは、第二次世界大戦の重要な戦訓だし。冷戦時代でソビエト連合の大戦車軍団と雌雄を決する必要がある…って時代はそれで良かった。
 
 ところが、ソ連って国はなくなった。その結果明らかになったことの1つに、「実は赤軍は張り子の虎だった」って事実がある。西独に戦車軍団で突っ込む…って計画は実在していて、ある程度本気で考えていたようだけど、西側が警戒したほど現実的なモノではなかった。ソ連の後継としてロシアって国があり、何だか軍事強化してるのは事実だけど、そもそもソ連時代にすら「空想同然、単なるハッタリ」に近かったものを現実に移せるとは…なお、北海道上陸作戦に至っては、ほぼ妄想レベルだそうな。仮に北海道に上陸することがあっても、せいぜい「海峡通過を安全にするための拠点防衛用」であり、札幌に向けて突撃できるとはとても…
 
 その結果、第三世代戦車は見事に戦う相手を失った。もちろん「戦車戦が起こりそうな局面」は今後も生じるとは思うけど、少なくとも想定された「ソ連の戦車軍団」とは色々違う。戦車戦に勝つために造られた戦車なのに、戦車戦が無くなりそう…となったら、そりゃあ必要性は微妙だよね。
 
 ただまあ、これは「シャカリキになって装備する必要が薄れた」だけであって、全くの用ナシだから廃棄しろ…ってレベルではない。けど、「こんな豪華な戦車が必要でしょうか!」って聞かれたら、色んな意味で返答に困るのは事実。そのため、米国や日本では「次世代戦車」として、もう少し弱くてリーズナブルで使いやすい(軽くて輸送しやすいとか)ものを想定しているようだ。
 
 もっとも、これは「第三世代」戦車全てに共通するモノ。多少時代の変化に対応できない部分があったからって、それは90式戦車の罪とは言えない。では、第三世代戦車の中で90式戦車は「強い」のか?あまり起こりそうもないけど、戦車戦に参加して90式戦車は勝てるのか?肝心なところはココでしょ。
 
 兵器ってのは当たり前だけど謎な部分が多く、90式戦車についてもそれは言える。特に複合装甲とやらは謎だらけで、どれぐらい効果があるのかはよくわかってない。それゆえ単なる推測ではあるんだけど、今のところ90式戦車はチャンと強いんじゃないかなあ。ただし…あえて言おう。ソ連が崩壊して戦車戦が発生しにくい時代になったからこその話である。
 
 先に書いたとおり、日本の兵器需要ってのは「中途半端」である。部品から何から何まで輸入しちゃう(あっさり使えなくなることを覚悟する)ことを許容できるワケではなく、かといって輸出するほど生産も出来ない。おそらくコレが原因だと思うけど、日本の兵器ってのは「改善が遅い」のだ。
 
 良い例が74式戦車だろう。90式の前の陸自の正式戦車。登場した時は良い戦車だった。今の目で見ても良い点は結構ある。けど、はっきり言って現時点では「恐くて使えない」戦車だ。何故?防御力に深刻な問題があるから。だって、登場してから今に至るまでロクな改善されてないんだもの。
 
 74式を含む第二世代戦車は、今も結構使われている。もちろん74式も。それどころか、90式は諸般の事情(つーか、デカすぎ)からほぼ「北海道専用」であり、本州では74式しか使えないって話があるし。にもかかわらず、ちっとも改善されてない。平時でさえ日進月歩である兵器の世界でコレは、「危険なほど怠惰」と言われても仕方がない。
 
 他の国の第二世代戦車は、大抵「リアクティブアーマー」なるものを装備するのが常識となっている。このリアクティブアーマー、実態は「戦車砲が命中すると爆発する爆薬」である。そんなことしてどーすんのかと言えば、爆発によって弾を破壊して…って効果があるらしい。これまた詳細は謎に包まれている。74式戦車にも有効な装備だとは思うけど、今のところコレをつけた74式戦車は見たことがない。なお、ロシア本国の戦車は最新型でさえコレに埋め尽くされている。
 
 これをもって「防衛省の怠惰だ!」と言うのは…一部当たっているけど、一部は仕方ない。防衛省はその昔から、手持ち兵器の半端な性能アップより最新兵器導入に熱心だったから。まあ、気持ちはわかる。予算は有限だからね。わかるんだけど…「本気で戦争する気があるのか」って気がするのも事実かな。ただまあ、「本気で戦争するつもりなんてあるワケない」と主張されたら、返す言葉がないような気もする。
 
 兵器ってのは、必ずしも「戦場で使うため」あるワケじゃない。「ウチにはこういう兵器があるから、戦争すると痛い目に遭うよ」と思わせるだけで大きな効果があるからね。それを考えたら、チマチマと手持ちの兵器を改善するより、宣伝効果のデッカイ新兵器導入に予算を使った方が効率はいい。似たようなことは兵器大国である米国やロシア・中国でさえもやっている。新兵器売った方が儲かるし。「完全な秘密兵器」なんてのは、よく考えるとアホらしいのだ。
 
 防衛省がそういう方針で兵器を装備している以上、本来なら90式戦車も「他の戦車より速いペースで」陳腐化するはずだった。実際、90式戦車は登場以来派手なアップグレードがない。M1もレオパルドもやってることなのに。これは90式戦車の罪ではない。罪ではないけど…じゃあ悪いのは防衛省?確かにココの方針には問題があるような気がするけど…「じゃあどうしろと?」と聞かれたら、返答に困るなあ。
 
 にもかかわらず、今現在も90式は必要充分な性能を確保できている。これは…はっきり言って、ソ連がなくなったからだ。もしソ連が今も健在なら、そろそろ新型戦車が登場して、それに対抗するためには…って話になっていたはず。ロシアが軍備にも力を入れ始めたのは事実だけど、2007年には何とか公開に…って噂のあった新型戦車はまだ登場してない。ついでに言えば新型戦闘機も2007年には公開を…って話があったハズなんだけど。そう言えば新型原潜はどうなったんだ?昔みたいに政治的圧力で外国が買ってくれた時代じゃないんだから、この手の公約違反は好ましくないドコロの話じゃないのに…ロシアの軍備拡張なんて、そんなものよ。ソ連時代がイジョーだっただけって話はあるけど。
 
 兵器ってのは、戦争をするための道具である。よって、「どことどういう戦いをするのか」がハッキリしないと、使えるかどうかは何とも言い難い。戦争ってのは相手があって初めて成立するわけで。さらに、現場の意見だの予算の都合だの…といった事情が絡んでくる。色々大変なのよ。もっとも、私よりこの分野に詳しい奴(この間逮捕された防衛次官とか)に言わせたら、「お前が言うな」なんだろうけど。
 
 ちなみに、シミュレイションゲーマーはこの話題と無縁じゃない。「兵器の評価」をしないとゲームにならないからね。カタログデータが豊富にあり、なおかつ実戦で使ったときの体験談も豊富にある第二次世界大戦の兵器でさえ、「どう評価するか」は頭の痛い問題。カタログデータなんて実戦では「参考」以上の意味を持たないし、かといって実戦は「ドコまでが偶然でドコまでが必然か」わかりにくい。それを一般化しないとゲームにならないってんだから…ましてやカタログデータがよくわからん戦国時代の合戦(実は謎だらけ)だとか、カタログデータ「しか」ない近未来架空戦(ソ連の北海道侵攻など)をゲームにするとなったら…その上無責任なプレイヤーから「この数字はオカシイ」なんて批判が飛んでくるんだから。ま、この趣味に関わっている人間なら誰でもわかってることだとは思うけど。
 
 最後に1つ。兵器ってのは、しょせん道具に過ぎない。大切なのはいつだって道具そのものより、使う人間である。90式戦車がどんなに優れていても、乗ってる戦車兵にやる気がなけりゃ「使えない兵器」。さらに命令を下す司令官とか、人事とか予算を管理してる防衛省のお偉いさんとか、そいつらにアレコレ言ってくる政治家とか、そいつらを選んでる政党および選挙民とか…の方が、90式戦車そのものより重要なのだ。兵器ってのはそれらを映す鏡みたいなもの。90式戦車がどうこう言うのは悪くないけど、その背景にあるモノについても忘れないようにして欲しい。戦争ってのはシステムなんだよ。だからこそ評価するのが難しいわけで…ブツブツ…