1月26日2013/01/27 02:42

 本日は、不真面目な題材の真面目な話題。「河○智美手ブラ事件」について。勘違いしている人は結構多そうなので、一応解説しておこうかと。何故か手元に解説資料があるし。なお、名前をボカしたのは、スパムコメント対策です。他意はございません。
 
 某アイドルグループの一員(一応卒業予定らしいが)の写真集。本来ならばあんまり興味はない。出版する権利を年末の競馬予想で勝ち取ったらしいので、覚えていたけれど。だから、先週スポーツ新聞で出た「表紙予定写真」も軽く流した。痛恨の極み。一応は「表現の自由に五月蠅い人間」だというのに…
 
 問題の写真を含むから…と、某ヤング層向けコミック誌が発売自粛、写真集も表紙差し替え、更に発行元が警察で事情徴収、あげく発売中止…と、かなりの大騒ぎになった。某アイドルグループは「滅茶苦茶な勝ち組」であり、コトがマスコミ内部に留まっているならば絶対バッシングされない(叩いたら干されるから)ような、「ビッグな」存在だ。とはいえ、お上には勝てない。当たり前だけど。
 
 実は今回の件、「表現規制に興味を持つ人間」にとってはかなり重要な話である。「児ポ法の適用範囲は、18禁表現と無関係である」ことが改めて確認されたからだ。理屈としてそうなるってのはとっくの昔に知られていたんだけど、事件化して報道され、「この範囲はやっぱりヤバいんだな」と示された意味は、決して小さくない。特に実務に携わる人間にとっては、「この程度はもうヤバい」という実例が示されたのは、一応有り難いはずだ。実際問題としては色々アタマ痛いわけだけど。
 
 わかる人間には上記の説明でわかるだろうけれど、そんな人間ばかりじゃないだろうから、ある程度説明しよう。「表現の自由」は憲法にも規定された権利ではあるけれど、無制限に追求させてはマズいと考えられている。わかりやすいのは今回のような「エロ絡み」だろうけど、他にも著作権やプライバシーの侵害に関する法律なども「表現の自由に対する規制」に分類される。そのため、この辺の法律が適切なのか議論する…なんて話になると、「表現の自由」の話も出てくる。
 
 閑話休題。表現規制の代表格として知られる「エロ絡み」は、従来2つの法律で規制されていた。わいせつ物頒布等の罪を規定した「刑法175条」と、「青少年保護育成条例」である。この2つ、対象が似ているだけに混同されやすいけれど、区別は重要なので注意。
 
 まずは刑法。この法律で「ダメ」とされたら、1)頒布(販売・配布など)しちゃダメ、2)閲覧(立ち読みなど)させちゃダメ、3)売るつもりで所持するのもダメ、になる。全ての年齢層に対し。過去の有名な事件はコレに該当するかどうかが問われたモノ。昔はともかく、今は適用範囲が緩くなった。
 
 この法律、現状とりあえずは単純に「ヘアはOK、その下にあるモノバッチリはダメ」と考えれば良い…とされている。比較的わかりやすい基準かな。なお、男女を問わずダメなので注意。情報量の関係から男性は「わかっている」コトが多く、「男性が作ったモノ」「男性向けのモノ」は意図的なモノを除いて問題になりにくい(もちろん、スレスレを狙ってアウトって件は山ほどあるんだけどな)のに対し、女性が女性向けに作る場合、「18禁なら何描いてもいい」とカン違いしている奴がいるようだ。まあ、サオは描きやすいからねえ…
 
 なお、この法律の話になると、「芸術性があるかどうか」って話が出てくる。ごく簡単に言えば、「芸術性がある」のなら、ある程度お目こぼしが期待できる…ってワケだ。しかし、今現在の基準だと、さほど意味がないようだ。そもそも、日本では「芸術性があれば何でも許可」ではない、とされている。芸術性があっても駄目なモノは駄目、って説が主流だ。その上「芸術性が無くてもOK」ってラインが緩和されたので、「芸術性があるからセーフ」ってゾーンがほぼ存在しなくなってきている。また、そもそもこの考えは「写真がエロに使えないほど印刷技術が低かった」時代、すなわちわいせつ物=文章か絵画、って時代の産物なので、画質の良い動画を個人的に所有できるような昨今では、重要性が低くなった。法律に関する専門的な話をする場合は重要だけど、それは「今ある基準は適切か否か」を論じる段階の話であって、「ドコまでがセーフなの?」を論じる場合はあまり意味がない。
 
 次に、青少年育成条例について。実は、国の法律に「18禁かどうか」を定めたモノはない。それらは全部都道府県の条例によって決められたモノだ。それが「青少年育成条例」。条例だけあって都道府県ごとにビミョーに内容が異なる。ただ、大抵「ウチの県民相手に頒布したらアウト」なんて内容になっているので、結局最も厳しいと考えられている条例に従うしかないと考えられている。ちなみに、条例無いに細かい規定が無く、それゆえ担当者の裁量次第で幅広くアウトとされかねない東京の条例が「最も厳しい」と考えられているようだ。同人誌の世界では一応「東京基準=日本全国基準」とされている。もっとも、ある意味一番怖ろしいのは長野県。該当する条例がない。理屈から言えば「やりたい放題」なんだけど、実際問題としては別方向からガチガチの規制をかけてくるんだろうなあ…と考えられている。こういう規制は「ドコまでがセーフ」って規定でもあるので、無ければ無いで困るものなのだ。
 
 青少年育成条例の基準は「複雑」の一言に尽きる。各都道府県ごとの違いについては「最も厳しいモノをクリアするしかない」で片付けるにしても、「その基準だとドコまでがセーフなの?」はかなり曖昧だ。少なくとも、現状では「同人誌基準」と「商業誌基準」が存在すると考えて良い。より厳しいのは同人誌基準。エロエロの同人誌は山ほどあるけれど、そのほとんど全て、私の知る限りでは全てが18禁。全年齢向け同人誌のエロの限界は極めて低い。それに対し、全年齢購入可能な雑誌にもかな~りエロいのが堂々と存在する。コッチの基準は正直よくわからん。何故そうなのかは色々推測できるけれど、面倒なので割愛。流石に商業誌の方は「やり過ぎ批判」が出ている。
 
 商業誌区分のワケわからなさは、ある意味想像を絶する。現状では「真性18禁」「実質18禁」「スレスレだけど18禁じゃない」の3つが存在するらしい。真性18禁のモノは、扱っている場所があんまり無い。アダルトビデオ店ならいくつか扱っていると思う。問題は実質18禁。実を言えば、コンビニの「立ち読みできないようにしてあるコーナー」に置いてあるエロい本・雑誌は、全て「全年齢許可」作品である…タテマエとして。「そうじゃなきゃコンビニには置きません」って自主規制があるらしいのだ。ハッキリ言って真性18禁のモノと見分けが付かない。区別がわからん。その上更に「そーゆーコーナーに置いてない」エロいモノも山ほどあって、これまた区別が付きにくい。基準を明確にするとイロイロ角が立つので、あえてイー加減にしているんじゃないかとは思う。ちなみに、同人誌基準だと全部18禁。それどころか、「猥褻物かもしれないので頒布停止」まである。カゲキかどうかだけ問題にするのならば、同人誌なんて全く役に立たない。ソコは誤解しないように。
 
 あと、青少年育成条例は規制対象が「視覚的なモノ」限定だと明記されている(私が実際確認できたのは東京だけ)関係上、小説はどんなにエロくてもこの法律で規制されることはない。挿絵は対象になるので注意する必要はあるけれど。小説を規制したら谷崎潤一郎とか吉行淳之介とかも「規制対象だ」となって、図書館(学校図書館含む)が大騒ぎすることになるからなあ…
 
 この条例に「芸術性」が問われるかどうかは、何とも。東京都の答弁では「どうも問いたいらしい」、すなわち、芸術性のあるモノだったら不問にしますよ…と言いたいらしいんだけど、「ソレのあるなしはどーやって判断するんだ」って部分が極めて曖昧。少なくとも前都知事は「オレ様判断」で問題ないと思っていたらしい。そうとしか思えない発言を連発してた。ちなみに、条文に「芸術性があれば認める」なんて文言はない。私は「規制したら反発くらいそうなモノはセーフ扱いにする言い訳」に過ぎず、ハナっから誰もそんなモノの有無を問題にして取り締まるつもりはないと判断している。
 
 この他に「業界自主規制」とか「コンシューマー機のメーカーチェック」といった規制も存在するけれど、法として重要なのは上記2つだった。そこに比較的最近(と言っても15年以上前だけど)加わったのが、児童ポルノ規制法、略称「児ポ法」である。
 
 古くからある2つの法律は、保護対象が「購入者」だというタテマエになっている。わいせつなモノを見せられちゃって、なんて可哀想…という趣旨になっているのだ。そーゆーモノを見て喜ぶような残念な存在になっちゃ駄目ですよ、ってワケだね。コレに対し、児ポ法は「モデルになってしまった児童」の人権を保護することが目的だ。要は「エロいモノ(画像が代表だけど、文章系も該当するだろう)に実在する児童を出すな」ってな内容になっている。
 
 たま~に誤解している奴がいるんだけど、現状では規制対象は「実在する児童が登場するモノ」になっている。実在しない「創作上の児童」については、人権が存在していない(当たり前だ)ので保護する必要がない、とされている。その辺も規制して「ロリコン絶滅推進法案」にしようって動きもあることはあるけれど、今のところはそうなっていない。
 
 法案が通って施行されたのはかなり前だけど、その頃からずっと「この法律は適用範囲が広くてヤバい」って話はされていた。いわゆる「18禁表現」に該当しなくても、この法律に引っかかって摘発されることもありそうだ…って心配はされていたのだ。しかし、今までは「アウト」とされたモノのほぼ全てが「18禁のモノを扱っている業者」だった。優先して取り締まるべきなのはドッチなのかを考えたら、そうなるのは不思議じゃない。それゆえ、実務上は「18禁のシロモノに児童を出した時のみ」規制されるのでは?って見解もあったことは事実。制限速度を10㎞弱オーバーしたら法律違反だけど、よほど特殊な場合を除きスルーされる。それと同じようなモノじゃないか?というわけだ。
 
 しかし、今回の画像は違う。私個人の見解としては、確かにエロいことはエロい。けど、商業誌より厳しいはずの同人誌基準で考えても、「18禁」にする価値はない程度。児童が絡んでいない限り、何も問題にならないはず。つまり、「児童絡みの18禁に手を出さない限りは大丈夫」って説は間違っていたことになる。どしぇ~。私は「18禁じゃないからって安心できない」派ではあったけれど、当たったからってちっとも嬉しくない。
 
 一応よりお堅い話をしておくと、警察もおそらくアレが「クロだ」とは断言できないはず。警察が考えるクロってのは「裁判で有罪に持って行ける」レベルを指すからね。裁判所の判断が示された訳じゃない以上、そこはまだ何とも言えない。今回の画像にしても、出版元を検挙したとしても、有罪に持って行けるかどうかはビミョー。有罪に出来る可能性は高いけれど、出版元も全力で抵抗してくるだろうから、裁判所に「憲法の精神から考えると、児ポ法はやり過ぎだ」と判断されて無罪になる可能性がある。出版元にしてみれば、仮に有罪になったとしても、「児ポ法は憲法違反じゃないかも知れないけれど、やり過ぎってコトに代わりはないんじゃね?」って話が盛り上がったあげく法改正に持って行けるかもしれないので、大金使って最高裁まで争う意義はあるでしょ。
 
 ただ、これは大手出版社だから出来ること。個人~同人レベルでは、「逮捕に値する」(有罪とイコールじゃない。有罪確定は裁判後の話。)ってだけで「人生アウト」レベル。そんな危険な橋は渡れない。中小出版社なら「アウト覚悟でスレスレ追求しないと会社が危ないんじゃ!」って姿勢も考え得るのかも知れないけれど、ソレでメシ食ってるワケでもない個人・同人が似たような覚悟決めちゃうのは、ちょっとオススメできない。そのため、「とにかく児童には注意しろ」としか言いようがない。
 
 児童に注意すると言っても、どのレベルの話なのか。う~ん…私の推測で良ければ述べよう。子供の写真、特に男の子は基本疑ってかかれ。一般人の常識で「健全なモノだと信じて疑わない」レベルのモノすら危ない。これは、「ヘンタイのターゲットになるのは女の子限定」ってな思い込みの方が間違っているとしか言いようがない。あと、「古い写真集は疑え」ってのも重要かな。男の子の扱いがいい加減でも問題にならなかった時代の産物だと、フツーの水着写真集レベルですら「問題画像」が入っている可能性がある。いわゆる「エロいモノ」に手を出してるわけじゃないから大丈夫…ってな思い込みは危険だと認識すべきだな。少なくとも今回、私はその観点からは完全にスルーした。
 
 こんな基準についての知識は、無くても大丈夫。同人誌作っているワケじゃないし…って考えるのはいい。昔なら。ネット時代となり、個人の情報発信力が格段に強化された昨今、「全く関心がない」のはどうかと思うぞ。少なくとも「知らなかった」が通用するとは思えない。とりあえず、自分の子供の写真をネットにアップする際は注意した方がイイと思う。「自分の子供なんだから、人権侵害の意図があるわけ無いだろ!」って言い訳は、おそらく通用しない。「自分の子供を虐待する親」という痛ましい話は結構ある。ついでに言うなら、虐待の意図がゼロだったとしても、ヘンタイに目を付けられたり、イジメの理由にされたり…といったリスクがあることも忘れないように。そーゆーモノから児童を守る、ってのが「こんな法律が施行された理由」なんだから。私はあくまで「法律による規制」に反対しているのであって、児童の人権を保護する必要性を無視するつもりはない。
 
 ちなみにこの児ポ法、「児童絡みのエロいモノは単純所持規制しよう!」って動きがあった。単純所持規制とは、とにかく持っていればアウトってこと。日本だと麻薬とか銃器とかがそーゆー規制をされているくらい。確か民主党が政権を取るちょっと前くらいにそーゆー提案がされ、一応「やり過ぎだ」で無くなった。さらに、この児ポ法をより強化したようなモノを東京都が条例にしようとして、猛反発喰らって譲歩した内容になった。この時も単純所持を規制しようって動きがあった。
 
 まあ、この手の規制をしたくなる気持ちもわかるけれど、基本やり過ぎだろってのが私の意見。この手の規制にはどこかで歯止めを掛けないと、「暴走したあげく誰も得しなくなる」からなあ。私はエロ規制が多少厳しくなっても「問題は少ない」人間だと思うけれど、この分野で踏みとどまらないと次は…って危惧は持っている。「悪い戦争を賛美する奴は規制しよう」なんて言い出しかねないからなあ。とにかく戦争反対な人間が主張するだけならともかく、「正しい戦争はやりたい人間」も主張してきそうなだけに。