9月18日2010/09/19 01:15

 業務連絡。仏行きは最終的に放棄されました…木・金・月の3日間休めないのがその理由。金・月だけにして…ってプランも考えたんだけど、色々考えた末に放棄されました。うーむ…ただ、これは相手が凱旋門賞だから。キングジョージの時は、絶対休む。影響なんて知ったコトか。なお、腹いせに「韓国もしくは台湾で同人カレンダー買ってくる」もしくは「香港国際開催に行く」のどちらかは実行しようかと。
 
 本日の話題は、押尾裁判。結構「面白い」裁判だと思うんだけど、マスコミ報道はソコをうまく伝え切れてない気がするので。なお、あまり深く突っ込まないで下さい。この方面では、私は「基本的にはシロート」だからして。
 
 裁判の経緯及び判決については、各自調べて下さい。マスコミもこの方面ではキチンと仕事してます。ただなあ…なんつーか、「無理矢理派手にしようとしている」感が強いんだよね。「セックス・ドラッグ」ってな事件なので、ソレを期待する気持ちはわかるんだけどさあ。正直言って、そこを排除した部分にこそ「この事件の面白さ」があると思うんだけど。
 
 細かい部分も大事ではあるけれど、この裁判で一番重要な点は何か?それは何と言っても「すぐ救急車呼んでいれば、被害者は助かったのか」に尽きる。検察は「すぐ呼んでいれば助かったはず」と主張し、「そうしなかったから、保護責任者遺棄致死罪」ってな求刑を行った。コレに対し弁護側は「いや、アレは救急車呼んでも助からない可能性が高かった」と主張し、「だから、せいぜい保護責任者遺棄罪」だと主張し、後者の主張が認められたわけだ。これ以外の争点も重要だけど、罪の重さを決定する上では枝葉だと言っていい。一般に「どの罪が適用されるのか」の方が「その罪の中で悪質かどうか」より影響がデカい(一応例外はある)からして。
 
 これのどこが「面白い」のか?よく考えてもらいたい。検察は被害者が「すぐ救急車を呼べば助かる」ような状態、つまり「症状が軽かった」から罪が重いと主張している。それに対し、弁護側は「救急車呼んだって助かるとは言えないほど、重症だった」から、罪は軽いと言っているのだ。よく考えれば矛盾でも常識と反しているワケでもないんだけど、ちょっと「あれ?」って思うような話だと思わないか?そこが面白い。
 
 今回の裁判では、とりあえず「本来ならば救急車を呼ぶ必要があった」って部分には争いがない(検察・弁護両方ともそれを認めていること)。その上で、「救急車を呼ばなかったのは、どれぐらい悪質な行為なのか」を争っていたわけだ。そう考えれば、「本来助かるはずのところを見殺しにした」方が、「どーやっても助からない」ものを見殺しにするより、罪が重いでしょ。
 
 ただ、この結果として、被告は被害者が「救急車呼んでも助からないかも知れないくらい、重篤な状態」にもかかわらず、救急車を呼ばなかったことになる。そりゃあアナタ、「重い罪の適用」は免れても、「軽い罪の中で重い処罰」喰らっても、文句言えないよ。そう考えると、あの判決はキチンと妥当性はある。報道によると「検察側も弁護側も控訴を検討」してるみたいだけど、だからって「とんちんかんな判決だ」ってワケじゃないと思うな。
 
 むしろ面白いのは、実を言えばこの弁護方針が「被告の意向」に従っていたのかって部分。報道を信じる限りでは、「無罪もしくは執行猶予を勝ち取れる」と信じていたようだけど、「アレは救急車呼んでも助からなかった」と主張していながら、それを勝ち取るのはちょっと無理がないか?無罪もしくは執行猶予を狙うのなら、「救急車呼べば助かる程度だった」ってな部分に同意して、その上でたとえば「軽率に考えちゃったので、ああなっちゃいました。悪意はありません」ってな主張に持ち込むべきだったのでは。ただ、この場合「軽率で済む問題じゃない」と判断されたら、重い罪を背負い込むリスクがあるわけだけど。
 
 そう考えると、今回弁護側は「被告の意向に反して、ローリスクローリターンな方針で弁護を行った」と考えることも出来る。一応は執行猶予を主張していたようだけど、「現実的な落としどころ」として「保護責任者遺棄罪の、重めの判決」を考えていた可能性はあるな。現実問題としては「そんなもの」かもしれないけれど、それが被告の意向に従っていないのであれば、「あえてハイリスクハイリターンを狙う方が、弁護方針としては正しい」って考え方もあるとは思う。
 
 それじゃ、この弁護方針は「問題があるモノ」だったのか?知るかそんなモノ。被告が身勝手な主張をしている場合、弁護士がそれに忠実に従うべきかどうかは難しい。そもそも依頼者(被告)は法律に関して詳しくない(当たり前だ)ので、「身勝手な」主張にこだわったからって「単にワガママなだけ」で片付けるのはどうかと思うし、依頼人に「お前は法律に詳しくないんだから、黙ってろ」とばかりに意向を無視して裁判を進めるってのも、「なんか違う」ような。かと言って「無理のある主張」を馬鹿正直に代弁して「無駄に重い刑罰」喰らうことが本当に「被告の利益を守る」ことになるのか…とりあえず、法律家のタマゴ連中が「押尾事件の弁護方針について、思うところを述べよ」って課題を出される可能性はあるかな。報道量の関係上判断材料が豊富なので、課題にする価値はあると思うんですが。
 
 検察側の課題も、ちょっと専門的になるけど面白い。今回、検察は「救急車呼べば助かったのに、見殺しにした」と主張したけど、裁判所&裁判員に「そうとは言い切れない」と判断されちゃった。にもかかわらず「控訴を検討」してるのだとしたら、「裁判所が異なれば判断も異なる」と期待しているか、あるいは「確かに救急車呼んでも助からなかったかも知れないけれど、今回の件は悪質な見殺しだ」と主張するのか、どちらかだと思われる。前者もありがちなんだけど、あくまで私個人の印象としては、後者じゃないかと。それがまた面白い。「判例変更」を求めているようなモノになるからね。
 
 一口に判例変更と言っても、色々ある。「今までシロだったモノをクロにする」なんてモノも一応あるけど、流石にそーゆードラスティックなのはそう多くない。今回の場合、「今までの判例では問題にならなかった部分を、問題にする」って感じの「変更」を求めるんじゃないかなあ。「確かに、薬物中毒だから救急車呼んでも助からなかったかもしれない。けど、そんなコトはシロートに見分けが付くわけがない。だったらこの場合救急車を呼ばなかったことは『救急車を呼べば助かったのに、呼ばなかった』場合と同様に扱うべき」と主張するのでは?
 
 もし検察側がこう主張するなら、通るかどうかは…私にわかるワケがねえ。法律の専門書が山ほど置いてある図書館(法学部のものとか)に籠もってすげ~時間かければ、ひょっとしたら何かしら結論を出せるかも知れないけれど。だいたい、私ごときにそれがすぐわかるくらいなら、弁護士だの裁判官だのは不要だ。
 
 ただ、もし検察側がこう主張したいのなら、「地方裁判所にソレを認めてもらえないのは、織り込み済み」となるのでは。裁判員がどうこうって話じゃない。「判例変更」に近いようなことを認めてもらおうと思ったら、いわゆる「位の高い」裁判所の判断を仰ぐ必要がある…ってのがフツーだからだ。
 
 英米のように「法律ってのは、過去の判例が基本」って国じゃなくても、判例ってのは重要視され、そう簡単に変更できない。理屈では地方裁判所がやったっていいのかもしれないけど、実際問題としてソコに踏み込む裁判官は少ない。そりゃまあ、判例がえらく古くて「時代に即してないのは明らか」なんて場合もあるにはあるけど、フツーは嫌がる。社会に与える影響は絶大だからなあ。「そういう面倒なことは上級裁判所にお任せする」ってのがフツーの態度だ。
 
 キチンと調べてない(そんな能力あるか)ので断言は出来ないけど、過去の「保護責任者遺棄致死罪か、保護責任者遺棄罪か」を争った裁判(今回の裁判の判例になる)では、どうやら「救急車を呼べば助かったかどうか」だけが問われ、「仮に助からないと認めたとしても、やっぱり救急車を呼ぶべきだったかどうか」は問題にされていないようだ。その必要がなけりゃ争わないから、「先例無し」が当然って気がするけど。検察側がそこを争いたいとしても、地方裁判所としては、「そーゆーコトは控訴した後で、高等裁判所の判断を仰いでくれ」って態度に出ても仕方ない気はするなあ。実際、検察側は今回の裁判で「そう解釈して欲しい」って姿勢を打ち出してない(その必要は無いという判断が基本だろうし、仮に主張しても地方裁判所に判断してもらえるかどうか怪しいから、当然ではあるけれど)わけで。
 
 こうして見ると、今回の裁判は法律問題としても「面白い課題」になり得る存在じゃないか?って気がする。法律関係の雑誌に「保護責任者遺棄致死罪じゃなく保護責任者遺棄罪になった決め手は何なのか」が掲載され、それについて学者連中があーだこーだ意見を述べても何の不思議もない。実際どうなのかは、「その昔、法学部ってトコロをお情けで出してもらえた」人間に聞くな。
 
 こういう問題は一般人には関係ない、単に「セックス・ドラッグ」って部分だけ話題にすれば…って意見は、今回の裁判員の方々に失礼ですな。一般人なのに、「こういう問題」がどーなるのか、判断を迫られたのだから。そのタイヘンさの一部をわかってもらおうと、こんな話を展開してみました。
 
 しかし…今回「マトモな判断」しようと思ったら、報道がどれだけ役に立たないかを思い知らされたような気が…芸能系として扱われているんだから、こんなモノなんだろうけど。その点も裁判員の方々はタイヘンだった気はするね。ま、芸能問題を扱う時のマスコミなんてこんなもんか。