5月22日2009/05/23 02:34

 5/19付「ゲーマーいちねんせい が ゆく」ってブログに、「(コマンド誌70号付録の『Ukraine'44』の)レビュー記事書いちゃった人はこちらまでどうぞ!(面白かったら)掲載するよ!」!」という、挑発的なコトが書いてあった。こういう挑発は買わなきゃ駄目だよね。とりあえず、テキトーに原稿書いて送りました。これぞ「見敵必戦」って奴ですな(違う)。
 
 本日の話題は、私が本屋である本を「手に取ることさえ出来なかった」話。なんか敗北感があるんだけど、何に対してそう感じるのか、自分でもよくわからなくて。
 
 私は海外ミステリを読む人である。古い作品も新しい作品も読む。でも、いわゆる「ハードボイルド」はどちらかと言えば苦手で、あんまり読んでない。それでも、ハメットとチャンドラーは流石に読む。特に、チャンドラーの長編は全部読んだ。そんなに数が多いわけではないし、入手しやすいからね。
 
 レイモンド・チャンドラーの訳と言えば、故清水俊二氏。その評価は高い。私も清水訳でチャンドラーを読んだ。しかし、「いくら名文とはいえ、流石に日本語が古い」ということで、最近村上春樹氏の新訳が出ている。「ロング・グッバイ」については、「ちらっと読んだけど…」って話をしたような。
 
 実は、その後も「読まなきゃ」と思っていながら、「ロング・グッバイ」完読は果たせてない。なんか、色々違うんだよね…時間がある時立ち読みしようとするんだけど、途中でやめちゃうんですよ。「それじゃ駄目なんだよ!」と、ハードボイルドに造詣の深い軍神鹿内殿から怒られたりしたんだけどねえ…
 
 そんな私のことだ。今度出た「Farewell, my Lovely」(あえて原題)の村上春樹訳も「読まなきゃ」リストに入れていた。けど、今度は手も出せない。一方で「読まなきゃ」と思いつつ、私の中の何かが手に取ることを拒絶しているのだ。本日も少し時間をかけたんだけど、結局手が出なかった。
 
 その理由は表題だ。清水訳では「さらば愛しき人よ」となっていたのが、村上訳では「さよなら、愛しい人」になっていた…この時点で、正直ゲンナリ。表題がコレじゃ、中身もちょっとついて行けないんじゃ…って気がして仕方ないんだな。
 
 そりゃあね、「さらば愛しき人よ」なんて、ちょっと古い日本語だなと私も思う。「最近の若い者」が「なんかぁ、ワケわかんねーっすけどぉ」などとヌカしても文句は言えないのかも知れない。ついでに言えば、最後の「よ」は、原題を忠実に訳すならつける必要がない。村上春樹氏が「そーゆーのはイカンよ」ってなことを考えたんじゃないかと思う。その意味では、正しいのは村上氏であって、私や清水氏ではないのだろう。
 
 けどねえ…正直、「何でこんなに軽いタイトルなんだ」と思っちゃったのは事実。倦怠期突入前のカップルが、帰宅する際にかける言葉みたいだ。そんな軽い言葉で済んじゃうような話じゃねーだろ。何と言うか、同じ作品に付けるタイトルとは思えない。
 
 特に気になったのは、やっぱり「さよなら」って言葉かな。「明日また会える」てな別れじゃないんだからさあ。もう少し重みのある言葉に出来なかったのかね?これなら、いっそのこと「あばよ」か「じゃあな」を使った方が適切だったような。これも古い言葉って気がするけど。
 
 「さらば」って言葉はいかにも文語調であり、日常的に使用する言葉じゃない。でも、あえてそういう「堅くて、古臭い言葉」が似合う状況ってのはあるんじゃないかな。「もののあはれ」に上手い現代語訳がないように、「さらば」って言葉も適切な現代語が存在しない言葉って気がする。「さらば宇宙戦艦ヤマト」を「さよなら宇宙戦艦ヤマト」に置き換えられるとでも?
 
 ついでに言うと、「愛しい人」ってのも…文語調の「愛しき」が古いのは事実だけど、それを言うなら「愛しい」ってのも時代がかってないか?素直に「愛する人」とした方が、違和感が少なかったような。正直、「指輪物語」のゴクリ(映画版ではガラム)を思い出してしまう…
 
 元々ハードボイルドってのは、より砕けた言葉で語った方が似合うジャンルだと思う。ハードボイルドの主人公で、一人称が「私」ってのは、むしろオカシイのでは。にもかかわらず、チャンドラー作品に限っては「私」を使うのが似合っていると言われる。これは清水俊二訳だからこそであって、それに及ばぬ凡才(悪いけど村上春樹氏含む)は「おれ」を使い、その他の表現も砕けたモノにした方が「らしさ」を出せるんじゃないかなあ。そう思います。
 
 7つあるチャンドラーの長編の中でも、「長いお別れ」と「さらば愛しき人よ」は特に人気のある2つだと思う。よって、まずこの2冊から訳し始めた気持ちはわからなくもないけど、私としては「コッチの思い入れも強いので、違和感を強く感じる」のも事実。残る作品はこの思い入れが多少緩和されるはずなので、その辺から徐々に慣らしていけば、村上春樹訳も読めるようになるかもしれない。けど…「ロング・グッバイ」は読めても、「さよなら、愛しい人」は駄目かも。「一番大事な部分でスベった」のは間違いないからね。日本語って難しいですなあ。
 
 なお、かく言う私の日本語能力は…(以下略)