12月24日2008/12/25 01:24

 クリスマスイブとやら。でも、カンケーない。年末に向けてミョーにテンションが上がりっぱなし。ま、毎年のことではあるんだけど。
 
 年末モードに突入すると、更新不能になる。なんか忘れているネタはないかな…とネタ候補をあさったら、イグノーベル賞ネタをやってないコトに気がついた。いかんね。そこで、在庫整理としてこのネタを。
 
 今年どんな研究が受賞したのかは、皆さん各自で調べてみて下さい。またもや日本人の研究が受賞したこともあって、最近はちょっとメジャーになってきましたし。私が採り上げるのは、そのうちの2つ、医学賞「高価な偽薬は、安価な偽薬より高い効果を示したこと」と、栄養学賞「コンピュータで修正したポテトチップスの音を流すことにより、ポテトチップスを食べている人は自分の噛んでいるポテトチップスが実際以上にかりっとして新鮮であるように信じることを示したこと」について、思うところを書いてみよう。
 
 イグノーベル賞を受賞するだけあって、両方とも脱力するような研究内容である。下らない、何の役に立つんだ…と思った人は多いでしょ。でもこの2つ、よーく考えると「怖い」研究だと思うな。この2つの研究、究極的には同じことを言っている。「人間の体なんて、思い込み次第だ」と。
 
 医学賞の方は、ある意味「おそらくそうなるんだろうな」ってなモノを、具体的に正しいと証明した研究である。偽薬効果(プラセボ効果・プラシーボ効果)ってのは、要は「薬を飲んだと思い込めば、効果のないモノを飲んでもある程度効いちゃう」ってモノ。何故そうなるのかは、ドコをどう考えても、「飲んだ奴の思い込み」だ。
 
 単なる思い込みが効果を発揮するのなら、その思い込みを強化した方が、より効き目が出てもおかしくはない。それを考えれば、「安い薬より高い薬の方が効くはずだ」って思い込み(正しいかどうかはともかく、そう期待する奴は多いはず)を利用することにより、効き目が強くなってもおかしくない。しょせん偽薬なので、限度はあるけどね。ただ、理屈を考えることは簡単でも、それが「具体的に効果を認識できる程度なのか」どうかは、やはり実験してみないとわからない。それをやったわけだ。だからこの研究、実を言えば、「当たり前のことを証明した」だけとも言える。もっとも、そーゆーものをキチンと証明する意義は大きいんだけど。
 
 偽薬効果ってのは、まだ謎が多い。そーゆー効果があるってのは知られているんだけど、細かい部分はよくわかってない。たとえば、「逆偽薬効果」(「薬じゃない」と聞かされて薬を飲んだら、効き目が悪くなるのかどうか)についてはよくわかってない。単なる思い込みだけでなく、薬以外の治療関連行為(「クスリ出されるくらいだから、節制しないと」と考えるとか)との関連性を強調すべきって話もある。記憶が正しければ、ペットも(多分、飼い主の気分を読み取ることによって)偽薬効果があるらしいって報告もあったはず。偽薬効果なんてアホな研究を…などと言ってはイケナイ。これはこれで真面目かつ大事な研究だ。
 
 栄養学賞の方は、要は「食感ってモノは、音にも左右されちゃう」ってコトを証明したものだ。食感ってのは、基本的には「口の中の触感」で感じるモノだけど、ある意味当然味(甘い・辛いなど)にも左右される。そういうあやふやな感覚なだけに、聴覚の影響もある程度受けるんだろうな。
 
 もっとも、この実験に「どんな奴を使ったのか」は、大いに気になる。世の中には味音痴ってモノが存在するからねえ。私に言わせると、そんな奴は印象以上に多い。しかも、この研究を発表したのは英国人。英国人の味覚は…(以下略)。中国人や日本人でも似たような効果はあるんだろうけど、英国人と比べてどうなのかは大いに気になる。
 
 この2つの研究を並べてみると、ある怖ろしい仮説を思いつく。「実は全く同じモノを出されても、値段の高い方を美味いという奴は、きっといる」ってものだ。偽薬効果が値段に関係があり、食感(厳密には味覚じゃないけど、一般的な意味では「味」の一種)が音に左右されるぐらいだからなあ。高級料亭やらミシュラン星付きレストランなどは、「値段高いから、ミシュランガイドで星もらったところだから」って思い込みを食わされているだけじゃないか…って気がしてくるよねえ。まあ、「それも味の一種」だと割り切ればいいんだろうけど。
 
 もっとも、逆に言えば、そういう割り切りのできない奴、すなわち「高い料理をありがたがる奴はバカだ」って考えも間違っているコトになる。「値段」って調味料の重要性を見過ごしているワケだからねえ。これは「食事を分量でしか語らない」のと、似たような行為に他ならない気もするんだけど…
 
 この話を掘り下げてゆくと、なんかすご~くマズい結論が出そうなので、この辺にしておいた方が良さそうだ。ただ…最近「アタマでメシ食っている奴」って増えたような気がする。これは料理出す側の陰謀というより、マスコミという「本来味がわかる訳じゃない、TV画面や誌面で味を宣伝する必要のある連中」の陰謀じゃないかと思っているんだけど。
 
 イグノーベル賞ってのは、単なるギャグじゃない。笑いを通じて普段注目されない研究分野に光を当てたり、詐欺同然の、「笑える」主張をしている連中を糾弾したり…といった効果もあるんだよ。以前「イグノーベル賞受賞する日本人が多いのは、日本の科学が役立たずな証拠」などという主張を見かけたけど、これは大いに間違っている。確かに、ノーベル賞の受賞率はやや低いから、「重要な研究にはやや弱い」かもしれない。けど、地味で影響は小さい研究だからって、誰かがやらなきゃその分野の研究は進まない。日本の科学行政には何かしら問題があるんだろうけど、総合して考えれば世界で有数のモノであり、イグノーベル賞受賞者の多さはそれを証明している(単純に言って、科学論文発表数が多いほど有利だ)と言うこともできる。
 
 そんなわけで、今回は特に「自分たちに関係の深そうな」話に関連する研究を採り上げてみました。諸般の事情から深く掘り下げられなかったけど、それは読者の皆様自身にやってもらおうかなと。とりあえず、「思い込み」を侮るのはやめた方が良いとだけしておこう。かく言う私自身が一番肝に銘じるべきだとは思うけどね。何だかんだ言ってブランドモノに弱いからなあ(苦笑)。

コメント

_ へなちょこ ― 2008/12/25 10:43

ども。風邪でダウンしているのに、こんなカキコしていいのか疑問だが・・・。
イグノーベル賞ものの研究テーマを以前から暖めているのだが、いかんせん費用と時間が捻出できない。
「ゴリラの味覚(の嗜好)は変化するのか?」
人間の味覚(の嗜好)が変化するのは周知の通り。
高級和牛では結構有名な話だけど、動物園で飼っているゴリラも、夏バテで食欲不振になった際、ビールを飲ませて食欲増進させるらしい。 ゴリラは自分で缶を開けることが出来るというので見てみたい。
や、それもだが、ゴリラは子供のうちから飲兵衛なのかが知りたい。 子供のゴリラはリンゴが好きで、大人はバナナが好きとかそう言う変化はあるのか。
犬とか猫とかは、甘やかすと偏食することは知られているのが、これは味覚(の嗜好)が変化したというべきなのかな。もし、変化だとすれば、ゴリラも変化する可能性は高いと思うが。
ちなみに、オランウータンとか、チンパンジーの味覚の変化には興味がない。ゴリラが好きだから、ゴリラについて知りたいのだな。

_ F男 ― 2008/12/25 22:20

比較的ワガママの多い類人猿の嗜好については、動物園・生物学者レベルですでにかなり研究が進んでいると思うので、残念ながら、この研究テーマでイグノーベル賞は駄目でしょうね。「人間に近い存在」だとわかっているゴリラ絡みでイグノーベル賞受賞しようと思ったら、「萌えを理解するゴリラを育成できるか」ぐらいやらなきゃ駄目でしょう…って、こんな研究成功したら、動物愛護団体に文句言われそうだけど。
味覚の変化って、実は単に味覚が劣化しているだけ(大人がビールを飲めるのは、苦さに鈍くなっているから)なので、理屈から言えばゴリラにも味覚の変化はあるはずです。ただ、そもそもの味覚が人間ほど鋭いとは限らないので、目に見える変化になるかどうかは別問題でしょうけど。

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