10月15日2007/10/16 02:26

 本日は柄にもなく、「格闘技」について語ってみようかと。思いっきり門外漢ではあるんだけどね。ただ、あえて言うなら「門外漢だからこそ語れることがある」気がするので。
 
 こんなことを語りたくなったのは、2つほど「後味の悪い」ニュースがあったから。1つはボクシングの内藤-亀田大戦。もう1つはPRIDEの解散。私は亀田信者でもPRIDE信者でもないけど、この2つがある意味「夢の終わり」だって気がするのも事実。これはやはり哀しいよね。たとえそれが「悪い夢」であったと仮定しても。
 
 両方とも、内実は何となくわかる気がする。PRIDEは「まだ価値がある」と判断して買った人間がいたのに、「実はクズ掴まされた」と気がついたからこうなったのではと。亀田一家に関しては、現時点での次男坊の実力が「あの程度」ってことに尽きるかなと。後になって振り返ってみれば、「何でみんな気がつかなかったかなあ」と言われても仕方ない、ごく当然の「冷徹なる結論」が出ただけって気がする。
 
 まずはPRIDEから。諸般の事情により地上波TVでの放映が出来なくなった時点で、ある意味この結末は見えていた。「経営者が変われば放映してくれるかも」ってヨミはあったのかもしれないけど、そこまで甘くはいかなかったようだ。
 
 誤解しないで欲しいんだけど、「地上波TV中継のないPRIDEはクズ」ってワケではない。ただ…ガソリンが一滴も存在しない場所において、どんなに出来が良くてもガソリン車はクズ同然でしょ。PRIDEって「器」がどれほど良い品であっても、「地上波TV中継がもたらす大金」って名の燃料がなけりゃ、結局はクズ扱いして放り出すしかなかったような気がする。慈善事業じゃないんだから。アラブの王族だのロシアの石油成金だのが買っていれば話は別だったかも知れないけど…
 
 亀田一家については、「増長したあげくのカン違い」の一言で全て片付いてしまう…ところが、むしろもの哀しい。ひと昔前のマンガに出てくる、薄っぺらい敵役のようだ。正直言うと、あの一家については前々から密かに同情していたりする。いずれホンモノに遭遇して破局に至ることが読めたからねえ。今の「地獄」から復帰してくるようなら大したものだけど、どうかねえ。そういう「ホンモノ」なら、あんな言動してないような気もするけど。
 
 とまあ、冷静に振り返ればこんな分析が可能である。しかし、これだけじゃコトの本質の半分も語っていない気がするな。ここはあえて「PRIDE復活は無理だ」「亀田一家は痛い」という「事実」から、強引に目を背けさせた「何か」について語らないと。
 
 正直言って、私は格闘技はさほど好きではない。いやまあ、スポーツ新聞のプロレス欄なんかを丹念に読む程度のことはしているんだけど、競馬みたいに「燃える」モノを感じるほどではない。理由は色々あるんだけど、一番大きいのは「最強伝説」っていう名の幻想に酔えないことかな。
 
 私は「強いから勝つ」とは考えない。「勝った奴が強い」と考える。どんなに強い奴でも負ける可能性は決して低くないと考える。「それでも馬券を買う」ってのは完全に別次元の話だ。私の知る限りでは、それが競馬である。けど、格闘技はすぐ「最強の証明」「最強伝説」なる概念を持ち出す。私はそれに納得できないモノを感じちゃうんだな。これは、どっちが正しいとかいう話ではない。私の意見だって立派な「幻想」だ。それこそ「日本酒で酔うか、ワインで酔うか」ってレベルの話に過ぎない。
 
 ただ…興行元にとって、この「最強伝説」なる幻想は甘美なものだろう。競馬界でさえこの幻想に酔うことがある(ディープインパクトとか。実力ある馬だったけど、あの騒動はこの幻想抜きでは語れないでしょ)し、ましてや格闘技においては何をか言わんや。そもそも、格闘技ってのはこの幻想抜きではあまり楽しくない。「真の」ノールールマッチなら、鉄砲持った兵隊さん多数が強いに決まっている(笑)。「1対1」「凶器無し」ってのも立派なルールだからねえ。そして、そこにルールがある以上、「ルールに習熟してる奴が強い」って大原則がある。
 
 ここで言うルールとは、「ルールブックに書かれているルール」と必ずしもイコールではない。「タックル有りだから、チャンと警戒する」「ヒジは禁止だから、あまり警戒しなくて良い」といった、ルールブックのルールから導かれる「戦い方」全般を意味する。囲碁・将棋やボードシミュレイションゲームのような「対戦型頭脳遊技」に詳しい人なら、常識に属する話だね。格闘技の場合は当然身体能力もモーレツに重要だけど、こうした「戦い方」も重要だ。まあ格闘技の場合、アタマを振り絞って考えるのではなく、日々の練習で鍛えた、脊髄反射レベルの動きの方が重要(知能の問題ではない。反応速度の問題である)ではあるんだろうけど。頭脳遊技はメインメモリ(容量多いけど遅い)搭載量が、格闘技はL1キャッシュ(容量少ないけど速い)搭載量が重要、と言ってもいいかも。
 
 閑話休題。格闘技には「強いなあ」って幻想はつきものだ。特に日本人はこの幻想が大好きなんじゃないかなあ。日本柔道が「一本」にこだわるのは、この辺も理由じゃないかと思うし。醒めた実態分析なんて何の価値がある?ただ、この幻想に「悪酔い」した結果、裏切られて後味が悪い思いをしてしまう可能性があることは否めないような。
 
 PRIDEは「ガソリン無き名車」だった。でも、そこに何らかの価値があるように考え、復活を信じた人間がいた。実際カネ出して購入した奴(ガラクタなのは織り込み済みって気もするけど…)も、何らかの形で「復活はあり得る」って騙されるだけの何かがあったと思えるわけで。そこに「PRIDE最強!」と信じるファンの声が無関係だったとは思えないね。「PRIDEは最強だ。最高だ。だから、きっと地上波TV放映権(カネ)がついて来る」って意見は、結構根強かったのでは。でも、実際は「TV放映権って名のカネあってこそのPRIDE」だったわけだけど…
 
 亀田一家も似たようなモノだ。ビッグマウスに派手な戦績。そこにあったのは、「強い」ってイメージ以外の何者でもない。「ボクシングが上手かどうか」よりもコッチの方が話題になるのは間違いない…トコロが哀しいねえ。信者・アンチの両方ともこの幻想に酔った人間に分類できる。その結果「どう考えても単なる素材」に過ぎない次男坊が、ホンモノに挑まなくちゃイケナイところまで追い込まれていったわけだ。確かに自業自得ではあるけど、あおり立てた周囲にも責任はあるような気がするね。
 
 もっとも亀田一家の場合、同情する必要はないかも知れない。反則野郎だからではない。「長男を出す」って選択肢もあり得たのに、それを採用しなかったからだ。怪しげな判定でベルト巻いたのは確かだけど、次男に比べれば遙かにマトモなボクサーだからね。少なくとも、あそこまでグダグダな試合にはならなかったはず。ただ、長男で負けたら後がないのも事実。だから投入をためらったんだろうけど…こういう時に「力の出し惜しみ」するのは良くないと思うんだけどなあ。「最初から全力で叩き潰せばいいはずなのに、勇者のLvが上がるまで戦おうとしないRPGのラスボス」じゃないんだから。「栗田艦隊、謎の反転」を思い出す(苦笑)。
 
 PRIDE復活も「亀田神話」も、どっちも正直「悪い夢」だった。「冷厳なる現実」に叩き潰されてしまったのは事実。世の中なんてそんなものよ。ただ…正直言って、この夢に酔った人間を責める気になれないのも事実かなあ。私は格闘技に対して「そういう」幻想をあまり持たない(全く持たないわけではない)人間だけど、やはり根っこはドリーマーだからねえ。夢が無惨に砕け散る様には、独特の悲しさを感じる。たとえ自分の夢ではなくても。
 
 そりゃあ私も人並みに利己的な人間だ。他人の夢より現実の方が大切であり、それよりも自分の夢が大事である(苦笑)。でも、夢敗れた人間に対し、「当然だ」「ザマミロ」って言葉をかけるのはどうも…もちろん、容赦なく報いは受けるべきだ。ただ、それと「一片の同情を捧げる」ってのは両立しうることだと思うんだけど、どうかね。
 
 悪いか良いかはともかく、夢を見るのは大変なことだ。何の疑いも不安もなく夢に向かって突っ走るのはアホだけど、そんな連中を見て冷笑を浮かべてるのもどうかと思うぞ。ただまあ、夢ってのは砕け散る予感に身を震わせつつ、それに打ち勝って一歩前に踏み出してこそ見る権利があるんだと思う。そう考えると、格闘技ファンの一部は安易な夢を見すぎって気がするのも事実かな。とはいえ、そうやって安易な夢を見て現実とやらに裏切られ、血の涙を流さないと「ホンモノの夢」は見られないと思う。
 
 最近やや下火になりつつある格闘技。PRIDE消滅・亀田伝説崩壊はその流れに拍車をかけることになりそうだ。ブームなんてしょせん「何もわからんド素人」をどれだけ巻き込んだかどうかって話ではあるけど、それがないとカネが回らず、結果的にホンモノのファンも色々辛い目に遭うんだよね…でも、そこでメゲてはいけないし、現実逃避してもいけない。そういう辛いときに、現実を見据えながらも見る夢こそが「ホンモノの夢」なんだから。だから…私が欧州の馬場でのモンジューの実力をよーく知っていながら、その息子のハリケーンランではなくハーツクライを選んでしまい、しかも「使っちゃイケナイ金」盛大に投入してオケラ以下になり、ヤケ酒一杯引っかけるカネさえ残らず、涙を流しつつカップ麺モドキをすするという報いを受けながらも、それでも「いつかアスコットとモンジュー一族にリベンジだ!」って野望を捨てなかったからって、笑わないで欲しい…

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