5月19日2007/05/20 03:22

 本日はこの色でクソ真面目なことを語るという、いつも以上に意味不明なことを。「同人誌と表現を考えるシンポジウム」なるものに参加したので、その感想・意見などを述べます。
 
 私は一応「同人誌作家」である。いや、確かに活動休止して長いんだけどさあ。だからこのシンポジウムに参加した…ワケではない。仕事で「(法律関係の)シンポジウムをググれ!」って指令を受け、検索結果と格闘してた関係上、何となく私もシンポジウムなるものに顔を出したくなっただけ(笑)。ま、参加する意義と意味はあるんだけどね。
 
 こんなシンポジウムが開かれたきっかけは、昨年「バーチャル社会のもたらす弊害から子供を守る研究会」なるものが開かれ、そこの最終報告書に堂々と「同人誌」について書かれたから。いやあ、同人誌も社会的に認知されたものだなあ…で片付けるわけにはいきませんね。ヤバいじゃん。
 
 この最終報告書、お上が作成させたモノには珍しく?「法的規制が必要である」ってな結論にはなってない。ただ、「自主規制が必要だ」とされ、同人誌についても「対策の強化を求める」って書かれた。そこにある種の危機感を感じた同人誌サイドが、「今までの取り組み」と「将来の展望」を外部に発信しようってのが趣旨である。
 
 世間がどう思っているのかはともかく、同人誌ってのは「実は規制がやかましい」ものである。主催サイドの判断次第で「販売停止」がありうるから。かなり前からこのことは徹底しており、この世界に出入りしてる連中には良く知られている。ただ、この規制が具体的にどう運用されているのか、誰がどういう判断基準で決定しているモノなのかは案外知られてない。「今までの取り組み」では、その辺が細かく説明された。
 
 まず、同人誌の大半は印刷所に持ち込まれる。実は、この時点でチェック・指摘が入るのだ。ただし、「刷れない」と言うことはまずない。つっ返した結果コピー等で流通させられても困るから。とにかく修正を依頼して、わかってもらう。印刷同人誌の9割以上は「こういうチェックが入っているはず」という報告が印刷所側からあった。
 
 その後は即売会の規制が入る。コピー誌や同人オンデマンド(自分のカラープリンターで刷り、製本したモノ)なんかはこの時点で初めて規制が入るわけだけど。もちろん「何を売っているのか」をチェックするのが基本だけど、参加者に「18禁のものを子供に売らない」よう、徹底指導がされる。この点は「匿名性の高いネット販売より、遵守されてるのでは」という報告が。
 
 最後は、書店規制。同人誌売ってる本屋ってのは昔からあったんだけど、今では「大々的に扱っていて、認知度が高めの店」が増えたからねえ。ここでも「即売会で規制されたモノは、修正がない限り扱わない」「即売会で規制されなかったモノも、一応目を通す」「もちろん、18歳未満には18禁のものは売らない」といった措置がとられている。
 
 判断基準だけど、まずは有名かつ歴史のある「コミケの判断」が全体に影響している。知る人ぞ知る話だけど、コミケの基準は結構キツめである。「今じゃ商業誌の方がよほど露骨」だと私も思う(苦笑)。そのコミケ裁定がどーなってるのかと言えば、最後は担当責任者の主観(笑)。ただまあ、これをずーっと担当してる人なので、文句を付ける余地は少ないと思う。なお、地域ごと・担当者ごとのブレはあると推定されているけど、すり合わせをまるでやってないワケではない。
 
 こうした現状報告に続いて、「これからどーする」って討議が行われた。まず出たのは、「同人誌ってのは決して野放しではない」ってことを世間に訴えていくことだと。そりゃそーだ。「こんな自主規制があるなんて、初めて知った」って人は多いでしょ。それと、「公的な規制に関しては、可能な限り避ける」べきだという意見も出た。理由としては、表現者(作り手)の萎縮効果(パクられるのは誰でもイヤがるので、そーゆーモノを作らなくなる)が大きすぎることが出た。さらに公的な規制だと、「行き過ぎでは」ってなっても修正しにくいし。ま、大筋を私なりの要約で述べるとこんなものかな。
 
 これらを受けての私の感想だけど、「多少不満有り」ってところ。実は、上記の話題は事実上「全部ワイセツ物関連」である。ある意味、これは当然だ。刑法だの児童ポルノ法だの青少年保護条例だの…といった「取り締まり根拠となる法規制」は、主にワイセツ物についてのものだからね。また、世間とやらも「ヤバい本=ワイセツ物」って思っているはず。話題の中心がこれになるのは、私にもよーくわかる。
 
 ただ、この方面で「問題なし」となったからって、私の不安は消えない。私に関係が深いのはエロではなく、むしろそれ以外の「規制されそうなモノ」だからだ。代表的なのは暴力表現。「おそらく単なる杞憂」だと思うんだけど、「戦争(暴力の極みである)を扱っていやがる」って理由でウォーゲームが規制されたらたまらん。他には飲酒・喫煙・賭博表現。「20歳未満にギャンブル関連の本を売るなんて」といきなり指摘されるのは、かなーり困る。今現在は世間の目が向いていないジャンルではあるけど、決して油断はできないのだ。
 
 公的な規制がない、世間の目が向いてない、だからやりたい放題…ってのは、実に危険である。世間の目がいつ向くか、わかったものじゃないから。特に暴力表現に関しては、近々「規制強化」って話が出るんじゃねえだろうな…と怯えている。米国での銃乱射事件では「ゲームの影響が…」って話が出ていたし、現時点では詳細不明だけど、つい先日どこぞの高校生が「母親殺して首斬って…」って事件があったことだし。憲法すら改正しようとしてる現政権のことだ。何かの拍子に「刑法改正して暴力表現にも取り締まりを」と言い出すかも知れない。「安部(5/21誤記訂正 安部→安倍)は右だから戦争関連は取り締まらないんじゃ?」ってのは、何の解決にもなってない。「戦争はできるようにするけど、代償として戦争賛美に繋がる知識は制限する」ってとてつもない案(実は最低最悪だな)を出されたら、どうする?
 
 話題にならない自主規制ってのも、結構始末に負えない。「いつの間にか強烈な歯止めかかってました」となりかねないのだ。特に私が気にしているのは、喫煙表現だ。私の印象ではあるけど、商業誌からは喫煙表現が減ってきてるような。そりゃあこんなご時勢だ。「喫煙に関する記述なんて、無意味な反発喰らうだけ」って判断もわかる。けど、それを同人の世界に持ち込むべきかどうかとなると…こと喫煙に関する限り、どんな不安も杞憂とは呼べないね。「全面禁止はオレの死後にしてくれ」と祈るのみである。
 
 規制ってのは表現者にとって敵ではあるけど、考え方によっては味方でもある。「ここまではやっていい」って目安になるからね。下手に野放しにして、グレーゾーンを全部バッサリ斬られるのが一番始末に負えない。世間の目が集まっていないものだからこそ、制作者サイドにより近い印刷所・同人誌即売会・同人誌取扱本屋が「どう考え、どう規制してゆくのが良いのか」って意見を発してもらいたかったな。
 
 ただまあ、ここで話題にならなかったってコトは、「とりあえず問題にされていないんだな」って安心感がある。いわゆるお偉いさんの考えなんて、「有害図書=エロ」ってレベルに留まっているんでしょ。油断するワケじゃないけど、それが確認できたのは大きかった。ここしばらくは、ウォーゲームが規制されたり、競馬本が18禁になるといった心配はしなくて良さそうだ。
 
 私は「有害図書という概念そのものがナンセンスである」って思想の持ち主ではあるけど、世間はそう考えていないと知っているし、その「世間とやら」に合わせる必要があることも理解している。そもそも、「有害図書なんて存在しない」って運動を起こそうって気概もないし。ものによればとりあえず従うんじゃないかな。たとえば、性的でない虐待表現の規制とか。
 
 ただ、ものによってはちゃんと戦う意志はある。実のところ、エロもその1つである。そりゃあ私はエロ関連の制作者ではない。消費者としても熱心ではないので、エロ同人・エロゲーに規制が入っても直接的に大きく困ったりはしない。けど、ここは長年にわたって先人達が「必死になって戦ってきた」分野である。ここを大突破されると、私が絶対譲れないジャンルに多大な悪影響が及ぶのは間違いない。直接矢面に立つ資格はないと思うけど、可能な範囲で協力してゆかねば…って思いはある。
 
 「表現の自由」ってのは、憲法で保障された権利の1つだ。そりゃあ社会全体の利益を無視してまで押し通して良いとは言わないけど、なるべくなら規制は避けて欲しい。こういうものは「自分にとって都合がよいモノだけ守れば良い」って考えでは、規制推進側に各個撃破されるだけだと思う。猥褻物に関する見解は色々あると思うけど、「ここが押し切られたら、次は自分かも」って危機感は多少でも感じ取って欲しいかな。