3月5日2007/03/06 01:18

 日曜日、Middle-Earth東京支部の一角で、私を含む数人が沈鬱な表情でゲームのマップを呆然と眺めていた。別に金曜飲み過ぎたワケではない。「F男にウイスキー」(過去にぶっ倒れた組み合わせ)であっても、「徐々に濃くしてゆく」なんて小技使われなきゃ、美味しく楽しくスマートに飲める(笑)。もっと別の理由である。この顛末は興味深いので、少し語ってみよう。
 
 眺めていたのは、現在テストプレイ中のあるゲームのマップ。売り上げなどに影響出るのは不本意なので、あえて詳細は伏せる。ま、わかる人にはわかるけど、そーゆ人にはバレたって問題ないと見なす。
 
 何で呆然と眺めていたのかって?そりゃもう、問題点が発見されたから。しかも、深刻な。ルールの穴だったら、いくら手ひどくてもこうはならない。いきなり「こういうプレイになっちゃうんだよね」ってモノが発見されちゃったのだ。
 
 これのどこがマズいのか?基本やヒントとか、ガイドラインが発見されたって程度なら喜ばしいことだ。それを飛び越して、「結論」が出ちゃマズいでしょ。犯人がわかってる推理小説みたいなものだ。う、ううむ…
 
 元々このゲーム、持ち込まれた時点で「ちょっと展開固定されてるかも…」って話があったようだ。まあ、その程度なら別に悪くはない。作戦を工夫してみれば別の手が発見されるかもしれないし、それでも駄目なら適度に手を加えてやればいい。その辺を探ろうとテストしてみた結果、出てきたのがよりによって「最終結論」。これはちとマズい。
 
 もう少しだけ細かく語ろう。このゲーム、攻撃側にはゲーム中1度だけ使える「必殺技」がある。まあ本当に「必殺」だったらゲームにはならないんだけど、ニュアンスはわかるでしょ。こういうゲームの場合、この必殺技をいつどういうタイミングで使うのかによって勝敗が決まる…ってのが1つの理想だと思う。
 
 ところがだ。これが上手く機能しない。理屈はこうである。この技はかなりの大技なので、ちゃんと対策してないと本当に必殺技になるし、対策していても相手はヘロヘロになる。ここまではいい。問題は、「こういう技を使うのは、どのタイミングが一番か」って問題に対し、答えが出ている点である。
 
 その昔、「何でウルトラマンは、スペシウム光線を最初から使わないのか」って議論をした奴は少なくないと思う。実はこのゲームの必殺技、最初に使うのが効果的なのだ。そりゃそうだ。この技喰らえば、相手はヘロヘロ。余裕なんてモノは失われる。もう二度と必殺技喰らわないって利点はあるけど、やられるのを防ぐのはそこそこ大変だ。
 
 それに対し、技の発動を起こらせればどうなるか?技が発動されるまでの間、守る側には余裕ができる。そのため、「必殺技のダメージを減らす」とか、「余計なちょっかいをかける」といった行動を取ることが可能になる。技の出し惜しみをする利益は一応あるけど、そんなものより「とっとと使った時の利益」が多いに勝ってしまうのだ。
 
 これは、ゲームとしてみたらちょっとマズい。わかってるのが「最後に使った方が効果的」ってな場合はまだいい。それまでの過程を楽しめるし、具体的に発動させるタイミングを見計らうスリルも味わえる。けど、「最初に使った方が効果的」では、露骨に展開が固定されてしまう。エンターテイメントとしては失格モノだ。「最初にスペシウム光線使って、弱った怪獣ボテくり回して勝つウルトラマン」のどこが美しいと?
 
 実は、このことは最初からある程度わかっていた。そいつはちょっと問題だから、少し工夫して「出し惜しみをした利益」を拡大できないか、テストしてみたのだ。その結果開発されたのは…確かに、最初から大技が炸裂することはなくなった。けどそれは、「最初限定で大技をスカす方策」が発見されたから。そ、それは…
 
 「とにかく早い段階から使った方がいいに決まってる」って性質変わらないまま、最初に大技をスカされてしまうと、どうなるか。それだけ防御側に余裕ができる。それだけ。元々攻撃側がベラボーに有利だったっていうのなら、コレも悪くない。元が少し防御側有利だっただけに、いきなり「相当運が良くないと、防御側の勝ち」って結論になってしまったのだ。これはマズい。相当マズイ。
 
 そりゃあ、この「大技をスカす方策」を禁じるのは簡単だ。そんなものは瞬時に開発できる。けど、それをやると「最初に大技飛ばすのが常識」っていう、最初の問題を拡大するだけ。目先の問題解決にはなっても、「ゲームを面白くする」という重要命題に対する解答としては不十分だ。だから、みーんな沈鬱な表情でマップ眺めていたのである。
 
 誤解して欲しくないんだけど、このゲーム良く出来てはいる。「究極の結論」が出るまでの間は楽しめるはずだ。けど、さほどフクザツなゲームではないので、結論を見つけると覆しようがない。結論が出ていても「そこに至るまでの仮定が面白い」ってんならまだ救われる。枢軸軍が相当厳しいとわかっていても「Victory at Sea」が楽しいように。けど、「序盤に大技出して、ヘロヘロの防御側を押しまくるけど、攻めきれない」って展開が「結論」じゃあ、それも期待できない…なまじ良く出来てるだけに、何かありそうなだけに、「どーしたらいいんだろ…」って考え込んでしまったんだな。
 
 とりあえず、私が発見した「問題点」は1つ。勝利条件である。攻撃側が「まあ普通にやれば獲得できる」得点源と、防御側が「まあ普通にやれば守りきれる」得点源の間に、かなり距離があるのだ。そのため、多少どちらかが有利な展開になっても、それが得点って形にならない。また、「あえて1方面は捨て、別方面で大きく前進する」って奇策も使いにくい。一応「うまくやるか、強引に前進すれば取れるかも」って得点源があるんだけど、点数が安い。攻撃側の損害が失点になるシステムなので、無理してソコまで前進する価値があるかどうかビミョーである。
 
 ゲームのことだけ考えたら、この「無理すれば取れそうな得点源」の価値を上げた方が面白くなりそうだ。けど、歴史的には「何でソコが重要なのか」全くもって説明できない。ゲーム的必然性だけでそんなモノを「重要だ」ってしちゃうのは、このホビーの場合避けたいよね。けど、他は何もない。ホントに何もない。
 
 もう1つの問題があるとすれば、「必殺技」の副次効果かなあ。必殺技は、使い方を間違えると失点になりかねない。これはいい。もう1つ、攻撃側にとって「良いこと」が発生するはずなんだけど、誰もそれを活用しない。「だからどーした」って程度の効果しかないから。正直言って、活用しようと考える価値がない。一応は「華麗に決まれば絶大な効果」なんだけど、それが決まるような相手ならそれ以前に勝敗は決している…というより、ゲームにならない。もう少し別の使い方はないものか。まあ、現状のままで問題はないんだけど、「見直しをしてみる」のなら、ここをいじることも考えた方がいいかも。
 
 こうしてみると、「面白いゲームを作る」ことの難しさがよくわかる。基本押さえて、破綻が無くて、面白くなりそうなギミック組み込んで、舞台も興味深そうなモノを選んで、それで出た結論が「イマイチ」である。具体的に何がどう悪いのか、正直私にはわからない。一応私なりに「この辺が問題かも…」って箇所は発見したけど、じゃあそこをどういじればいいのか、見当もつかない。もっと別のトコロに面白くするポイントがあるかもしれないけど、当然私ごときにそんなものはわかりゃしない。
 
 そりゃあね、私も基本的にはプレイヤーだ。プレイして面白いかどうかが全てであって、デザイナーの苦悩なんて知ったことではない。「作品」ってのはそんなものだと思う。でも、デザイナーの苦悩に触れるのが無駄とは思わない。そうすれば「ココはこうした方が」とか、「こーゆー感じのモノが面白いと思う」といった、建設的な意見を出しやすくなるから。狭い業界なだけに、こういう姿勢は大切じゃないかと思うんですけど。
 
 このゲームがこの先どうなるのか、私にはわからない。今の形のまま発表されても、一定水準の評価は受けると思うけど…かといって、この先何か良い手が見つかる保障もない。まあ、「少し手直しして、細部煮詰めて微調整」するんだと思われる。これだと本質的な問題点は解決しないかもしれないけど、プレイする緊張感は維持できるかも。それだけでもかなり違うでしょ。
 
 私ごときヘタレゲーマーが何を言っても空しいって側面があるので、今回の経験は「貴重な体験だった」ってことでお茶を濁しておきたい。ここで「こうすればいいのさ!」って解決策を示し、周囲から賞賛を浴びる…ってのが理想ではあるんだろうけど、現実はそんな簡単なモノじゃない。ただ、「そーゆーもの」を求められてるデザイナーの方々は大変ですねえ。いやあ、デザイナーじゃなくて良かった(おい)。

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