7月13日2006/07/14 04:05

 本日の話題は、少しお堅い話。先日判決が出た、著作権保護の裁判について。新聞報道じゃわかりにくいので、私なりの解説をお届けしようかと。
 
 裁判の内容はこうだ。2004年1月1日から、映画の著作権保護期間が50年から70年に変更された。これはいい。問題は、2003年の末をもって著作権が切れる、「1953年公開の映画」の著作権はいつまで保護されるの?ってことだ。
 
 映画配給元の言い分はこうなる。1953年公開の映画の著作権は、2003年末、つまり2003年12月31日24:00まで保護される。これは2004年1月1日0:00とイコールだから、2004年1月1日から適用される法律で「救われる」。よって、著作権は2023年末まで保護されると。
 
 これに対し、格安DVDを制作していた会社の言い分はこうなる。1953年公開の映画は、2003年末で著作権が切れる。法律改正は2004年からの話だ。よって、2003年までの権利が2004年からの法律で救われることはない。よって、著作権は2003年末に切れている。
 
 この見解を見て、どちらが正しそうに感じたか?「どっちでもいいじゃん」では片付けられない。どっちかが「正しくて」、どっちかが「間違って」いるのだ。それが裁判ってモノだからね。とりあえずは自分なりの見解をまとめてみて欲しい。その方がこの問題をよく理解できると思うので。
 
 映画配給元の理屈にはオマケがある。著作権を所管してる文化庁が「配給元の見解が正しい」って意見を発表してるのだ。文化庁のサイトはかなーり不親切な設計(アクセスしてみた)なので探すのは大変だけど、時間をかけて探せば誰でもこの「公式見解」を読むことが出来る。この見解は法律雑誌などにも掲載されたことがあり、専門家なら「知らなかった」じゃ済まされないと思う。
 
 なーんだ、国の見解がそうだってんなら、配給元の言い分が正しいでしょ…と思うのは間違ってはいない。(実質的に)法律を作った文化庁は「そのつもり」だったんだと思う。ということは、裁判で勝ったのは配給元…ではない。新聞などに発表されたけど、勝ったのは格安DVD制作会社の方である!
 
 私は一応法学部出身である。その私がこの裁判の記事を読んだとき、興奮のあまり鼻血が出そうになった。はあ?2003年末に切れる権利が2004年から有効な法律で救われる?それは「法律の世界」じゃ非常識としか思えないんだけど…
 
 法律ってのは、内容だけじゃなく「いつ、何に対して」適用されるのかが重要である。「○月×日から有効」って法律が、具体的にどの範囲に適用されるのか…それを間違ってるようじゃ、正直勉強になりゃしない。映画配給元と文化庁が使った理屈を著作権保護法以外に適用して試験答案に書いたりしたら、即時「不可」が待っていそうなモノだ。
 
 日付・年数なんかに関する規定ってのは、「民法」の基本的な部分(民法総則の章)にその根拠がある。簡単に言えば、「憲法に次いで重要で基本的な法律の1つ」。当然その解釈はかなーり厳密に決められていて、「この法律とは別の方法で計算します」ってデカデカと書いてある法律を除き、例外なく適用されるはずだ。ま、少なくとも司法試験なんて見向きもしない「なんちゃって法学生」レベルの人間なら、こう理解して問題はないと思う。
 
 「こりゃあ配給元が負けるな。負けなきゃオカシイだろ」と思っていたら、案の定。念のため判決文をじっくり読んだところ、気のせいかも知れないけど、「こんな初歩的なことで裁判してんじゃねーよ」と言いたげな雰囲気が感じられたんですけど。配給元は上訴するつもりらしいけど、無駄じゃないかなあ。個人的見解としては、憲法9条裁判(戦争放棄と自衛隊&在日米軍に関する裁判)並の「芸術的屁理屈」(結論が正しいかどうかはともかく、あれは屁理屈だろ)を持ち出してくれない限り、配給元が負けますね。
 
 この裁判、悪いのはどこをどう考えても文化庁である。1953年公開の映画の著作権を保護したい。それはいい。でも、そうしたいんなら「新しい法律は2004年1月1日から有効」ってするのはマズいだろ。争いの余地無く保護対象にすることは、そんなに難しくなかったはず。なんかどっかで「カン違い」をやってしまったものと思われる。
 
 そりゃあね、ひょっとすると世界的には「文化庁の解釈」が一般的なのかもしれない。著作権保護ってのは世界レベルでどうこうって話だし、「日本の常識、世界の非常識」ってのは良くある話だから。でも、ここは日本だろ。日本国内じゃ日本の法律を適用するのが当然で、そこには日本風の法律解釈が伴う。だったらそれに合わせて法律を作るべきでしょ。
 
 今回の裁判は、表面上は映画配給元VS格安DVD制作会社である。でも、実質は文化庁VS日本の司法権の争いじゃないかな。その証拠に、判決文の中でしっかりと「(文化庁の見解は)法的に誤ったものである」などと明言されてしまっている。裁判所にしてみれば、「やい文化庁、ケンカ売ってんのか!」って言いたかったのでは。新聞報道にはソコまで突っ込んで欲しかったなと。
 
 とまあ、偉そうなことを書いてきたけど、「へっぽこ法学生」だった私のことだから、自分が正しいかどうか自信が持てなかったのは事実。あんまり細かく調べてるヒマなかったからなあ。逆転判決は難しいとしたけど、これもどうなるかわからない。配給元の弁護士は私より出来がイイに決まっているからね。でも、そもそもこんなコトが裁判に持ち込まれ、下級審とはいえ「ふざけんな」で片付けられたってことは、その時点で文化庁の失態だと思うぞ。ソコは譲れませんね。反省しろ反省!

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