1月7日2006/01/08 02:42

 久々になってしまった生物学の話題。ネタはあったんだけど、どう加工していいのかわかんなかったもので。
 
 故スティーブン・ジェイ・グールドの生物学の本「マラケシュの贋化石」が出て久しい。この人の本は本当に面白い。この人が「知る人ぞ知る」存在だってのは、世間側が間違っている。
 
 多彩なテーマを扱った本なので、何をどう紹介するのか悩ましい。とりあえず今回はクローンについて語りましょ。私はこの本読むまでカン違いしてた部分があるので。多分世間はもっとカン違いしてるはず。
 
 クローンについては、今更どうこう説明するような話じゃないでしょ。有名なんだし。確かにスゴい技術だと思うし、倫理的に色々問題をはらんでいるコトだとは思う。けど、私に言わせれば「騒ぎ過ぎ」である。一卵性の双生児と何か違うとでも?
 
 私がカン違いしてたのは、一卵性双生児とクローンの違いについてである。私は「ほとんど変わらない」と認識してたんだけど、実は「相当異なるモノ」でした。フツーの人が思うところの「遺伝子」ってのは、細胞核のDNAのことである。まあコレが一番重要なのは間違いないし。でも、遺伝子ってのは細胞核にだけあるものじゃない。
 
 細胞の中には、ミトコンドリアってものがある。酸素と栄養を結びつけて、エネルギーを生み出す器官だね。これは独自のDNAを持ち、分裂で増える。一卵性双生児はこのミトコンドリアDNAも同じだけど、クローン人間は普通一致しない。これは前々から知っていた知識だけど、クローンと一卵性双生児の「違い」にも関係してくるってのは忘れてた。やはり付け焼き刃の知識はダメだね。
 
 ミトコンドリアDNAだけ一致しないと、どう違ってくるのか?これは何とも言い難い。ミトコンドリアの「個性」が多細胞生物の何にどう影響してくるのか、ちゃんと調べた研究がないから。推測では、さほど影響ない気がする。でも、無視できる程度かどうかは…ちなみに、人間の細胞内には他にも「独自遺伝子を持つ組織」が存在します。それらを全てひっくるめると、「何かしら影響はある」と考えた方が無難じゃなかろーか。
 
 つまりだ。クローン人間ってのは、「オリジナルとの同一性」について、一卵性双子を超えるモノじゃないってコトがわかる。まあ上手く工夫すれば、同一レベルにまでは持っていける。同じ母親の卵細胞使えるのならばね。ただ、どう頑張ってもそこまで。小説などに出てくるような「完璧なコピー」にはほど遠い。
 
 確かに、人間の成長には「氏」、つまり遺伝子が深く関わっている。それは間違いない。だけど、「育ち」もまた重要だ。一般に一卵性双生児ってのは生まれた年も家庭環境も同じであり、「クローン人間」には期待できないくらい「コピーするための」条件が整っている。にもかかわらず、「よーく似てるけど、やっぱり別の人間」に育つ。双子でさえこうなんだから、クローン人間だって「似てるけど、オリジナルとは別の人」になるのは確実だ。
 
 じゃあ、クローン人間には何の問題もないのか?大アリである。ただ、それは本人にはあまり関係がない。問題の根は周囲にある。「クローン人間」って聞けば、周囲の連中は「オリジナルと同じ人」だと思いこむ。クローン当人の意志なんて無視して。それが色んな不幸を生むのは、ほぼ確実でしょ。「偉大な人間の息子」が色々と大変なように。ましてやクローンである。「しょせん息子だから」で片付けられたコトが、「クローンなんだから…」って理屈で片付けられなくなる。しょせん「よく似てるけど別の人」だってのに。
 
 もう1つ、「実際発生しそうな」問題もある。赤ん坊を失った親に対し、「クローンを作って生き返らせましょう」などと持ちかける連中が出る、ってことである。クローン人間が認められれば、間違いなく登場するね。よーく考えると生き返ったワケじゃなく、単に妹弟生むのと何も変わらないのに。それでも、「生き返った」って甘美な言葉に逃げる親はいるだろうし、それを利用してカネふんだくるゲスは必ず出る。それが広まれば、子育ては「リセット可能」なシロモノに成り果てる…それでいいワケねーだろ。
 
 あと、臓器移植のためのスペア作りってのも問題だな。拒否反応のことが気にならないんなら、親兄弟や息子だろーが臓器奪い放題…って考えてる輩はいそうだからねえ。クローンがよく似た別人だとしても、「だからどーした」と真顔で言ってのける鬼畜は、必ず出る。そしてそんな鬼畜に協力するバカも。
 
 何度も言おう。クローンってのは、「年が離れた一卵性の双子以下」のものである。こういった存在を作れるってだけで相当な技術だし、意義もちゃんとあるとは思う。けど、それだけの話だ。息子や兄弟姉妹と大きく違う存在じゃない。そこをちゃーんと理解していれば、クローン人間なんてさほど害のない存在である。問題なのはクローン技術やクローン人間ではない。それを取り巻く人間の誤解こそが問題なのである。
 
 クローンに対しては、私は比較的楽観的な見方をしている。広がっている迷信に対してきちんと「それは違う」と言い続けていれば、そのうちみんな正しい認識をするようになり、「クローン?あっそ」で片付けるようになるんではないかと。ま、そんな存在にもかかわらず、あえて作る意義って何?って問題が残りそうだけど。
 
 というわけで、ここの読者の皆様にも「クローン人間なんて、単なる兄弟も同然」って認識を持って貰いたいですね。しょせんクローンなんて、そんなもんだと。クローンがどうこう騒ぐくらいなら、今の少子化を何とかする方が先だと思うんだけど、どうかね。え?「お前が言うな」って?(苦笑)。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://fohpl.asablo.jp/blog/2006/01/08/203297/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。