9月27日2005/09/28 02:01

 いやあ、すげー本を見てしまいました。笑いをこらえるのが大変でしたよ。というわけで、急遽ネタ差し替え。なお、本日のネタは「場合によっては有害」なネタです。読むときはご注意を。いやこれある程度マジに。
 
 正確な書名は忘れた(覚える価値はない)けど、タイトルにある言葉が全てを語ってます。ホメオパシー。へー、ホメオパシーに関する本なんて、今の日本で出版してもらえるんだ。これには感動しちゃいましたね。
 
 ホメオパシーって何かって?伝統ある有名なエセ医療行為である。理屈はこうだ。まず、治したい病気と似た症状を引き起こす毒物を用意する。これを水で猛烈に薄める。とにかく薄める。そして、この薄めた毒物を患者に飲ませる。こうすると病気が治るってものだ。
 
 この理論のどこがエセなのか?分子・原子理論が正しいとするならば、最終的に患者が口にする飲み物の中に、最初に使った毒物の分子が全く含まれない確率が高いほど薄めるのだ。現代科学では、そんなものが何の役に立つのか全く説明できない。私の見解としては、未来永劫無理だと思う。はっきり言って、単に水飲んでるだけだ。
 
 このホメオパシー、科学的にはクソだと言われているにもかかわらず、実は今でもさかんに行われている医療行為である。インドじゃ一般的に行われているらしいし、一部先進国では医療保険の対象だとか。いやはや、スゴい話だ。
 
 ちなみに、ホメオパシーの推進者も分子理論と矛盾することは大いに認めている。なのにどこが効くのかって?私の知ってる最新理論とやらによると、水ってのは溶かした分子の「記憶」を保持する性質があり、それが病気を治すんだそうな。なんじゃそりゃ。私の知ってる物理・化学の知識を総動員しても、そんな結論は出せないんだけどね。
 
 あまりにも科学的常識と反するものなので、正直マトモな検証が行われていないって話は聞いたことがある。その必要があるのかはビミョーだけど。私の見解としては「徹底的に検証して、コテンパンに叩き潰すべし」と思うんだけど、まあそこまでのヒマ人はいないってことか。ちなみに、本日見かけた本の中にマトモな説明はなかった。当然だと思うけど。
 
 ちなみにこの治療法、実は「理屈はクソだけど効き目はある」と思う。ない方がオカシイ。世の中にはプラセボ効果っていう「薬と思って飲めば何でも効く」って事実があるからだ。このため、全ての薬はこの思いこみによるもの以上の効果があるかどうか、ちゃんと検証される。この効果は純粋に心理的なモノなので、要は「信じていれば効く、疑ってると効かない」ってものである。だから、本日のネタを読んで「へー、そーなんだ」と思ってしまった人には、ホメオパシーの効き目が薄くなるだろう。大変申し訳ないけど。
 
 プラセボ効果については、ある程度は効果ありってのが定説となっている。場合によってはこれを当て込んで薬モドキを与えることもある(もちろんナイショに)んだとか。理屈から言えば多少の効き目はあって当然だろう。病気だって不安が打ち消されれば、それだけ体の抵抗力が増すだろうから。人間誰しも自然治癒力があり、その効果は多少精神状態に左右されるからね。正直マトモな医療行為とは呼べない気がするけど、他に打つ手がない場合には仕方ないのかな。
 
 本日読んだ本では、「ホメオパシーの効果はプラセボ効果じゃない」ってことを証明するため、「犬に飲ませたら効いた」と主張している。でも、思うにこれは単に「犬にもプラセボ効果が効く」って証明じゃないかと。飼い犬にも感情がある。人間ほど高度なモノじゃないとは思うけど。犬自身が「薬を飲んだ」って自覚することはないだろうけど、飼い主が「薬飲ませたから、もう安心」って態度を見せれば、犬の方も安心するでしょ。そうなりゃプラセボ効果が効いても不思議はない。 
 
 余談を1つ。この「動物にプラセボ効果はあるのか」については、私の知る限りではちゃんとした研究結果がない。獣医学だけでなく、人間の知能や感情を研究する上でも役に立つと思うんだけどね。本質的には群れを作る動物である犬と、孤独生活を送る猫では効果が異なるかもしれない。飼い主のいない野生動物(野良でも可)でも効果はあるのか?イヌネコならともかく、ネズミやらトリにも効くのか?ヘビやカエルやサカナはどうだ?面白そうなので、どっかの誰かに研究してもらいたいな。
 
 私はホメオパシーはクソだと確信を持っている。全く信じることが出来ない。これは科学的な態度だとは思うけど、冷静に考えるといいことあんまりないんだよね。私にホメオパシーは効かないって欠陥は大したことないと仮定しても、それを埋めるプラスがあるわけじゃないし。強いて言うなら「ホメオパシーが効いちゃうような自分はイヤ」って自己満足があるぐらい。でもまあ、それが人生ってモノじゃないかな。
 
 ホメオパシーってのは、推進者によると文字通り万病に効くとか。ガンだのアトピーだのといった、現代科学での難病にも効くと主張してます。ひょっとすると肥満・高血圧・糖尿病・痴呆にも効くのかも。にもかかわらず、効き目が落ちる方を選びますか?それは皆様の自由にお任せします。
 
 真面目な追記:ホメオパシーは毒物を使うだけに、扱いを間違うと危険です。よくあるのは100倍希釈を30回繰り返すほど薄める(えーと、那由他倍ってコトか?)ものなのでご注意を。さらに、ホメオパシーは医療行為として扱われる可能性があります。勝手にやると医師法・薬事法に違反したとして逮捕されるかもしれません。気軽に実行しないでくださいね。

9月28日2005/09/29 00:01

 本日は昨日の流れをくんで、エセ医療に絡んだ話を。ちょっと前から「どのタイミングで採り上げようか」って考えていた話なんだけどね。
 
 街頭で「貴方の健康を祈らせてください」と言って相手の頭の上に手をかざす…って連中を見たことはないだろうか。その昔は結構見かけた気がするけど、最近姿を見ない。少なくとも私の「ナワバリ」周辺からは絶滅したようだ。
 
 私はこの集団については「いかがわしい」の一言だけで片付け、細かいことは何も知らなかった。まあ、それがフツーだよね。しかし、最近になって唐突に「これのことじゃねえか?」って理屈を発見してしまった。私の推測が正しければ、あれはどうもセラピューティック・タッチとかいうものらしい。
 
 セラピューティック・タッチってのは、要は「ハンドパワーで何でも治す」ってエセ医療行為。発祥の地は米国で、ドロレス・クリーガーとかいう奴が始めたらしい。日本の街頭で見かけた連中との関係は不明だけど、なんか関係がありそうな気がする。なにせこのセラピューティック・タッチ、日本名が「手かざし療法」だもの。
 
 これがエセかそうでないかについては、素晴らしい研究がある。米国でエミリ・ローザっていう11歳の女の子!(当時)が学校の自由研究でコレを採り上げ、母親と共同で実験した結果「インチキと思われる」という結論を出しているのだ。
 
 これだけだったら「しょせん子供の研究」かもしれない。この研究結果はホンモノの医者と連名の末、米国の権威ある医学専門誌に発表されたのだ。エイプリルフールに、ってオチがつくけどね(苦笑)。ただ、いくらエイプリルフールとはいえ、医学専門誌が出来るジョークにはどう考えても限度がある。ある程度はちゃんとした研究なんでしょ。スゴい話だ。
 
 私がこの逸話を知ったのは、イグ・ノーベル賞受賞者を紹介した本の中でだ。イグ・ノーベル賞ってのは「人々を笑わせ、そして考えさせられる研究」に対して与えられる。権威ある賞とは言い難いけど、時には笑いと賞賛を、時には大いなる皮肉を込めて与えられる。日本人も何度か受賞しているので、聞いたことぐらいはあるかも知れない。去年はカラオケを発明したってんで日本人が受賞してるし。
 
 ちなみにこの手かざし療法について受賞したのは、推進者のドロレス・クリーガーの方。1998年の話だ。ただし授賞式に姿を見せなかった(当たり前だ)関係上、受賞式に出席したのはエミリー・ローザの方。ちなみに彼女は翌年、「学校で進化論を教えちゃ駄目」という決定を下したコロラド州(彼女の地元)教育委員会に代わって再びイグ・ノーベル賞授賞式に出席し、見事な受賞演説を行っている。
 
 この話、面白すぎてどこからどうツッコんでいいのか困るぐらいだ。そこで、ここでは「米国科学の底力」を賞賛することに論点を絞らせてもらおう。そりゃあこんなアホな療法を世界に広めたのも米国であり、罪は大きいと思う。けど、11歳の女の子がきちんとインチキを証明する論理展開を行い、それを(冗談交じりだろうけど)権威ある医学専門誌に投稿し、それが採用される(エイプリルフールにだけど)ってところが、米国科学の真のスゴさだと思う。
 
 科学って何だろう。この問いに答えるのは実は大変だけど、実験結果から仮説を立て、その仮説を証明するための実験を行い、その実験結果から…という過程にこそ神髄があるんじゃないかな。権威に頼り切った教条主義的押しつけばかり信じているようでは、たとえ何を信じていても「科学的」態度とは呼べないだろう。
 
 11歳の女の子がこんな実験を思いつく。その結果を権威ある場所が発表する。ココに米国の「科学魂」ってものが感じられないだろうか。ひるがえって日本はどうだろう。11歳の小学生がこれだけ独創的で有意義な実験を思いつけるか?それを権威ある専門誌が発表できるか?私が思うに、日本の科学行政や教育はここが間違っているような。要は魂が貧弱なのだ。
 
 そりゃあエミリー・ローザ嬢はスゴい人だと思う。でも、いくら何でも11歳の子供が学校などによる教育の影響抜きでこれだけの業績を挙げるとは思えない。多分母親の影響が大きいのだろう。これはつまり、「(学校の試験や受験で点を取るための)勉強しなさい!」しか言わない母親ではない、ってことじゃないかな。そうじゃなきゃこんな子供が育つとはとても思えない。
 
 テストで点を取るのが悪いわけじゃない。いい教育を受けようと思ったら、レベルの高い学校を目指すのが早道だと思う。だけど、せめてエミリー・ローザ嬢みたいな道もあることは覚えておいて欲しい。「理想の教育を受けた子供」ってのはこういうことを指すんだと。
 
 なおこのエミリー嬢、今年ぐらいに成人(米国では18から)になるはず。今どこで何してるのかは知らないけれど、大きな器を持った人だから、実り多い人生を送るんじゃないかと思う。願わくは科学の道に進んでいて欲しい。そうでなかったら、米国のみならず人類全体にとって損失だと思うぞ。